抄録
本稿は,近年,急速に生産が拡大した飼料用米に注目し,飼料用米を活用した養豚業を含む耕畜連携が進展した要因と地域農業への影響について,首都圏の生活協同組合が中心となって取り組まれる「日本のこめ豚」事業を事例に考察した。飼料用米を生産する岩手県軽米町においては,長らく続く主食用米の生産調整に苦心し,かつ地域の主要農産物であるたばこ生産の減衰がみられるなかで,経営規模の異なる様々な農家にとって着手しやすい飼料用米生産が有効な手段の一つとなり,その作付が増加した。さらに経営規模の大きい秋田県鹿角市の農事組合法人においても,飼料用米生産は効率的な転作作物品目として歓迎された。そして,これらによって生産された飼料用米は,環境負荷の低減や商品の流通・販売情報の入手とその活用に積極的な秋田県小坂町の養豚業者によって活用され,その豚肉を販売する生活協同組合も,詳細な情報提供や産地見学などによって組合員である消費者からの評価を高め,販売が急拡大した。本事業の進展は,耕作放棄地の発生防止や飼料原料の自給率向上などの課題への対策を,消費者に「見える」さらには「見せる」ことによって具体化し,生産者らの取り組みへの共感をもたらした。飼料用米生産の継続は補助金交付を前提としたものであることは否めないが,複数の地域や異業種間,また消費者も含めた連携や連帯感の創出が,地域農業の新たな展開や存続に好影響をもたらすものと考えられる。