2019 年 22 巻 p. 185-205
本稿は,近年活発化しているアジア留学が,日本人学生のアジア・シティズンシップの育成に,どのように影響を与えるのかを明らかにするものである.まず,アジア留学の活発化の現状とその要因について論じ,次に,地域内留学の先駆である欧州域内のエラスムス計画による留学,およびアジア域内留学による地域アイデンティティ形成に関する先行研究を概観した.先行研究においては,地域アイデンティティの定義が必ずしも明確とはいえず,その結果も一定ではなかった.そこで本研究では,アジア・シティズンシップの概念を検討し,より包括的な定義に基づき実証的に分析を行った.その結果,アジア留学が,アジアの政治・経済・歴史・文化に関する知識や関心を高め,また,アジアの人々との交流意欲やアジアへの貢献心を高めたことが明らかになった.