高等教育研究
Online ISSN : 2434-2343
特集 高等教育と金融市場
所得連動型貸与奨学金
―その理論的背景と課題―
阪本 崇
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2019 年 22 巻 p. 29-48

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抄録

 高等教育への投資が社会的に望ましい水準より低くなる理由のひとつとして,不完全情報に起因する資本市場の不完全性をあげることができる.1950年代から60年代にかけて,ミルトン・フリードマンやアラン・プレストによって提唱された所得連動返還型貸与奨学金は,この不完全な資本市場を補完することができることに加え,教育財源調達のための公平なシステムとしても注目され,オーストラリアやイギリスで導入された.所得連動返還型貸与奨学金には,債務不履行に対する堅牢性や,保険に類した機能の提供が可能なこと,低い行政コストなどの利点があるが,その一方で,所得の定義と捕捉,家計の扱いの難しさ,利子負担の増大といった課題がある.しかし,その基本的な仕組みのもつ有効性は高く評価されており,高等教育以外の分野での応用も期待されつつある.

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© 2019 日本高等教育学会
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