本稿の目的は,高等教育研究におけるRCTへの懐疑を踏まえて,RCTの方法論とは別の科学的認識論の観点から1)エビデンスの特徴,2)その構築の過程を明らかにすることである.本稿では科学的認識論に依拠したEBPM論である「活用のためのエビデンス論」とその基礎にある科学的実在論論争の知見を,高等教育研究への応用を視野に理論的に検討する.これにより1)EBPMのエビデンスには,抽象度の異なる概念により構成された階層的な理論とその理論によって架橋された文脈の異なる多様な経験的根拠が求められること,2)エビデンス構築のためには,理論の妥当性をその理論が構築されたときには想定されていなかった文脈において検証していく必要があることを明らかにする.最後に高等教育のEBPMの課題とその解消の展望について考察する.