2021 年 13 巻 1 号 p. 39-52
競争優位の構築に必要な経営資源を獲得するために、新興国企業は先進国企業へM&Aを行うことが多く見られている。ところが、M&Aに先立ってほかの海外投資を通じて国際化が進んだ場合、M&Aの意図や経営資源の活かし方は競争力の向上に伴って変化する。本稿ではタイムスパンを長くとって観察することで、新興国企業の国際化プロセスにおけるクロスボーダーM&Aの戦略的位置づけの変化を分析した。
本稿は、ハイアールによる三洋電機の白物家電事業の買収を対象に事例研究を行った。その結果、新興国企業による先進国企業へM&Aは、当初のスプリングボード的な意図と買収先の実際の活かし方との間にズレが生じ、つまり計画された買収先の役割が変化することが示された。それは、国際化プロセスにおいて、新興国企業が過去にベンチマークとしていた先進国企業に追いつき、さらに追い越して買収するといった「逆転」現象に起因する。この場合、買収先企業の技術的資源を本社経由でほかの地域拠点に共有することで、新興国企業はクロスボーダーM&Aを通じてトランスナショナル企業へ変貌する可能性が示された。