今日の企業間・企業内国際分業、知識の移転と創出が、デジタル技術を基盤とする情報通信技術の進化と産業基盤の技術体系に占めるソフトウエア技術の重要性の高まりによって、“ Time & Space”を超えて可能となってきた。このことは、いわゆる技術体系のパラダイムシフトと同時に、研究開発(R&D)能力を地理的に分散化させる要因となるのみならず、それを戦略的に活用することができる企業、国々へのR&D能力の集中化要因にもなることを意味する。それに対応した形で、例えばIBM社は同社名義の米国取得特許の開発国籍数を、共同発明国を含めると、米国籍以外に1990年の12か国、2000年の24か国、2010年の37か国、そして2015年には54か国へと増加させてきた。このことは換言すれば、ソフトウェア技術をベースとする米系IT多国籍企業が、R&D能力のある人材の国際的・地理的分散化に戦略的に対応してきたことを意味する。こうしたR&Dの国際化は、単なる海外R&D拠点の活用にとどまらず、技術知識を国際的な共同作業によって創出するいわゆるR&D活動の国際的ネットワーク化を推進させてきた。
しかしながら、R&D活動の国際的ネットワーク化に関する従来の研究は、個別の事例研究をベースにした定性的実証研究が中心となっており、R&D活動のネットワーク化を定量的に明らかにしたものとはなっていなかった。 そこで本論文では、米国特許取得件数の上位を占めている米国IT企業7社、および特許件数が急増しているFacebook社を加えた計8社のR&D活動の国際化状況を概観し、さらにIBM、Google、および日系Canonを含む3社をとりあげ、「国際的共同開発のネットワーク化」を定量的に可視化し、明示化することを目的としている。
本研究では米系IT8社のR&D国際化の概要を確認したのち、上記3社のR&Dの国際化とネットワーク化の関係を図示化してその概要を把握する。そしてつぎにグラフ理論に依拠したネットワーク分析を通して、密度、推移性等の指標により上記3社のネットワーク構造の特徴を捉え、さらに次数中心性、媒介中心性、近接中心性、固有ベクトル中心性、(Google)PageRank等の諸指標により各頂点の重要性を評価、比較し、3社のR&Dの国際化とネットワーク化の関係を定量化する。
本論文では最後に、分析対象の米系2社の特許技術の発明に見るR&Dの成果は、とりわけR&D活動の国際的ネットワーク化に起因していることが定量的に反映されていることを指摘する。
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