国際ビジネス研究
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13 巻, 1 号
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研究論文
  • ─Google社、IBM社とCanon社との比較を中心として─
    林 倬史, 中山 厚穂, 菰田 文男
    2021 年 13 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    今日の企業間・企業内国際分業、知識の移転と創出が、デジタル技術を基盤とする情報通信技術の進化と産業基盤の技術体系に占めるソフトウエア技術の重要性の高まりによって、“ Time & Space”を超えて可能となってきた。このことは、いわゆる技術体系のパラダイムシフトと同時に、研究開発(R&D)能力を地理的に分散化させる要因となるのみならず、それを戦略的に活用することができる企業、国々へのR&D能力の集中化要因にもなることを意味する。それに対応した形で、例えばIBM社は同社名義の米国取得特許の開発国籍数を、共同発明国を含めると、米国籍以外に1990年の12か国、2000年の24か国、2010年の37か国、そして2015年には54か国へと増加させてきた。このことは換言すれば、ソフトウェア技術をベースとする米系IT多国籍企業が、R&D能力のある人材の国際的・地理的分散化に戦略的に対応してきたことを意味する。こうしたR&Dの国際化は、単なる海外R&D拠点の活用にとどまらず、技術知識を国際的な共同作業によって創出するいわゆるR&D活動の国際的ネットワーク化を推進させてきた。

    しかしながら、R&D活動の国際的ネットワーク化に関する従来の研究は、個別の事例研究をベースにした定性的実証研究が中心となっており、R&D活動のネットワーク化を定量的に明らかにしたものとはなっていなかった。 そこで本論文では、米国特許取得件数の上位を占めている米国IT企業7社、および特許件数が急増しているFacebook社を加えた計8社のR&D活動の国際化状況を概観し、さらにIBM、Google、および日系Canonを含む3社をとりあげ、「国際的共同開発のネットワーク化」を定量的に可視化し、明示化することを目的としている。

    本研究では米系IT8社のR&D国際化の概要を確認したのち、上記3社のR&Dの国際化とネットワーク化の関係を図示化してその概要を把握する。そしてつぎにグラフ理論に依拠したネットワーク分析を通して、密度、推移性等の指標により上記3社のネットワーク構造の特徴を捉え、さらに次数中心性、媒介中心性、近接中心性、固有ベクトル中心性、(Google)PageRank等の諸指標により各頂点の重要性を評価、比較し、3社のR&Dの国際化とネットワーク化の関係を定量化する。

    本論文では最後に、分析対象の米系2社の特許技術の発明に見るR&Dの成果は、とりわけR&D活動の国際的ネットワーク化に起因していることが定量的に反映されていることを指摘する。

  • 潘 宝燕
    2021 年 13 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    グローバル化及び情報技術の進展により、企業を取り巻く経営環境が激変している。世界工場と呼ばれている中国企業の存在は重要になってきている。品質管理に関する先行研究を整理すると、SQC、TQC、TQM、ISO9000認証といった規範的品質管理手法が注目されてきた。中国企業の品質管理について、多様な視点からの研究は少なからずあるものの、品質管理のタイミングや実現方法という様式的な特徴についての体系的な分析は、筆者の知る限りにおいて先行研究には見出されない。そこで、本稿では、複数の中国企業の事例研究により、特に品質管理のタイミングや実現方法に注目して中国企業の品質管理の特徴を実証的に明らかにすることを目的とする。

    その結果、中国企業の品質管理は、タイミングや実現方法においては多様であることが明らかとなった。中国企業の品質管理のタイミングには、事前・事後重視型品質管理、漫然型品質管理、事前重視型品質管理、事後重視型品質管理の4つのタイプがある。中国企業の実現方法には、設備・人中心型品質管理、設備中心型品質管理、人中心型品質管理、成り行き型品質管理の4つのタイプがある。このように、中国企業の品質管理には多様性が見出された。つまり、中国企業の品質管理は、SQC、TQC、TQM、ISO9000認証のような規範的な品質管理手法を導入するというよりもより柔軟なものである。

  • デンソーコリアとその海外孫会社を事例に
    徐 寧教, 銭 佑錫
    2021 年 13 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    本論文は、近年多国籍企業の事業拡大の新たな形態として浮上している海外孫会社という進出形態の実態を明らかにするとともに、なぜそのような形態が選択されるのかについて議論するためのものである。そのためにデンソーの韓国子会社と中国孫会社の事例を取り上げている。デンソーは、韓国完成車メーカーの中国工場向けのビジネスのために自らの海外子会社を中国に設立するのではなく、デンソーコリアの中国子会社、つまり海外孫会社という形態を活用している。デンソーコリアは長年現代自動車と取引関係を持続し、関係的技能を構築してきた。現代自動車の中国進出に伴い、デンソーも現代自動車の中国工場へ部品を納入しなければならなかった。現代自動車とのビジネスで不可欠な関係的技能を日本のデンソー本社は保有しておらず、その能力を保有しているデンソーコリアによる海外孫会社を設立する必要があった。デンソーの事例は、海外孫会社という形態を選択する理由が、本社は持ち合わせていない海外子会社の独自の能力、つまりデンソーコリアが韓国完成車メーカーとの間で構築した関係的技能の移転・活用にあったことを示している。さらに、海外子会社が構築した独自能力の特性が、その活用経路として海外孫会社という形態が選択されるためのもう一つの条件となっていることが示された。

研究ノート
  • ─ハイアールと三洋電機の事例─
    龔 園園
    2021 年 13 巻 1 号 p. 39-52
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    競争優位の構築に必要な経営資源を獲得するために、新興国企業は先進国企業へM&Aを行うことが多く見られている。ところが、M&Aに先立ってほかの海外投資を通じて国際化が進んだ場合、M&Aの意図や経営資源の活かし方は競争力の向上に伴って変化する。本稿ではタイムスパンを長くとって観察することで、新興国企業の国際化プロセスにおけるクロスボーダーM&Aの戦略的位置づけの変化を分析した。

    本稿は、ハイアールによる三洋電機の白物家電事業の買収を対象に事例研究を行った。その結果、新興国企業による先進国企業へM&Aは、当初のスプリングボード的な意図と買収先の実際の活かし方との間にズレが生じ、つまり計画された買収先の役割が変化することが示された。それは、国際化プロセスにおいて、新興国企業が過去にベンチマークとしていた先進国企業に追いつき、さらに追い越して買収するといった「逆転」現象に起因する。この場合、買収先企業の技術的資源を本社経由でほかの地域拠点に共有することで、新興国企業はクロスボーダーM&Aを通じてトランスナショナル企業へ変貌する可能性が示された。

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