2021 年 13 巻 1 号 p. 27-38
本論文は、近年多国籍企業の事業拡大の新たな形態として浮上している海外孫会社という進出形態の実態を明らかにするとともに、なぜそのような形態が選択されるのかについて議論するためのものである。そのためにデンソーの韓国子会社と中国孫会社の事例を取り上げている。デンソーは、韓国完成車メーカーの中国工場向けのビジネスのために自らの海外子会社を中国に設立するのではなく、デンソーコリアの中国子会社、つまり海外孫会社という形態を活用している。デンソーコリアは長年現代自動車と取引関係を持続し、関係的技能を構築してきた。現代自動車の中国進出に伴い、デンソーも現代自動車の中国工場へ部品を納入しなければならなかった。現代自動車とのビジネスで不可欠な関係的技能を日本のデンソー本社は保有しておらず、その能力を保有しているデンソーコリアによる海外孫会社を設立する必要があった。デンソーの事例は、海外孫会社という形態を選択する理由が、本社は持ち合わせていない海外子会社の独自の能力、つまりデンソーコリアが韓国完成車メーカーとの間で構築した関係的技能の移転・活用にあったことを示している。さらに、海外子会社が構築した独自能力の特性が、その活用経路として海外孫会社という形態が選択されるためのもう一つの条件となっていることが示された。