国際ビジネス研究
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新興国市場戦略における資源の連続性と非連続性の問題
臼井 哲也内田 康郎
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2012 年 4 巻 2 号 p. 115-132

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抄録
本稿の目的は、新興国市場開発における資源戦略上の問題を論究することにある。そこで、新宅・天野両氏により提唱された非連続性とジレンマ命題を手掛かりとして、本国資源の連続的な活用と非連続性の関係に関して既存の諸理論(RBV、DC論、IB研究)と経験的証拠(資生堂とYKKのケース)に基づき分析する。本稿は、新興国市場開発において本国資源に対するウエイトの置き方に「幅」があることを提案し、資源戦略上の問題を3つへ分類する。まず、新興国市場開発であっても本国資源に大きくウエイトを置くことができる場合には、資源に非連続性はなく、ジレンマは生じない。資生堂のケースがこれを例証している。資生堂は本国資源である「製品開発におけるノウハウ」、「店頭の接客サービス」、そして「流通チャネル開発力」を中国市場へ順次移転し、急速に事業を拡大している。一方で、新規資源のウエイトが大きく(本国資源のウエイトが小さく)、本国資源との両立が困難な場合に、ジレンマが生じる。YKKは、先進国市場において蓄積してきた資源が現地中国メーカーの開拓には十分に活用できないため、新規資源の束の開発に一から取り組んでいる。本稿ではこれを、「両立のジレンマ」と呼ぶ。これに加えて、本国資源の連続的な移転と新規資源との統合の局面において、禁止的な高コストが生じる場合には、「移転・統合のジレンマ」が発生する。注意すべきは、「両立のジレンマ」は本国資源が活用できず、新しい資源の束の開発に企業が容易に踏み出せないという資源開発の問題であるのに対して、「移転と統合のジレンマ」は本国資源の連続的活用の局面におけるオペレーション上のマネジメント問題であるという点にある。この2つの問題は、本質的に異なる。
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© 2012 国際ビジネス研究学会
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