抄録
中国では近年、国有企業改革によって、民営中小企業の役割が重視されるようになっている。中小企業によって生み出された最終製品およびサービスの価値は国民総生産のおよそ60%を占め、都市部における中小企業の雇用比率は80%近くに達している。しかし、一方で、中小企業において、雇用短期化の傾向があり、人材流出による企業内部ノウハウの蓄積不足、人材育成の遅れなど人的資源管理面の問題が浮かび上がっている。ところが、中国民営中小企業の人的資源管理についての研究は少なく、とりわけ、その実証研究はきわめて限られている。さらに、東北地域の民営中小企業の人的資源管理についての研究は皆無に近い。そこで、本論文では、中国東北地域の27社の事例(インタビュー調査)を基礎に中国での市場競争が激化するなか、中国民営中小企業が、いかなる経営戦略のもとに市場での競争優位確立を志向しているのか、そしてこうした経営戦略のもと各企業は市場環境に適応するため、どのような人的資源管理施策を実施しているのかを、それらの内部労働市場の形成状況の調査を通じて考察することを目的としている。分析の結果の要約は以下の4つである。第1に、中国民営中小企業は経営戦略類型によって内部労働市場化の程度が異なる。第2に、中国民営中小企業の内部労働市場化の進む状況は、特定の階層と結び付いている。第3に、同じように積極的に教育訓練を実施していても、離職率に差がある。最後に、中国民営中小企業の発展に伴い、社内人材育成の傾向が強くなる。これらの結果は、中国民営中小企業において、経営戦略と内部労働市場とに強い関係があることを示している。また、中国民営中小企業は、将来の成長を成し遂げるために人的資源管理の諸施策にもっと力を入れるべきであることを示唆する。