国際ビジネス研究
Online ISSN : 2189-5694
Print ISSN : 1883-5074
ISSN-L : 1883-5074
インドビジネス展開における日韓製造業の比較 : マーケティング・ダイナミック・ケイパビリティーの3要素を中心として
長島 芳枝長島 直樹
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 5 巻 1 号 p. 17-36

詳細
抄録

インドは中間所得者層が急速な勢いで増加しつつある有望な市場だが、日本企業によるインドビジネスは必ずしも順風満帆ではない。トヨタ自動車、パナソニックといった代表的な企業も、韓国のライバル企業に市場シェアや企業業績において劣る状況が続いている。こうした問題意識から、本研究はインド市場への進出、ビジネス展開における日韓企業の比較を試みたものである。トヨタ自動車と現代自動車、及びパナソニックとLG電子を比較した。新興国ビジネスを分析する上で、有用と思われるマーケティング・ダイナミック・ケイパビリティ(MDC)の枠組みが重視する3要素、すなわち(1)商品開発管理、(2)顧客との関係構築・管理、(3)サプライチェーン管理-に即して比較検討を行う。学術論文、書籍、新聞・雑誌記事によって整理した上で、確認すべきポイントに関して、専門家、実務家へのヒアリングを実施し、事実確認と補完を行った。比較検討の結果、上記(1)の商品開発管理において、日韓企業間に大きさ違いが見られた。すなわち、韓国企業には進出当初において現地ニーズを把握するための綿密な市場調査を行い、それに基づいた商品を開発しているのに対し、日本企業では現地ニーズ把握のプロセスが見られない。2000年代後半から日本企業も軌道修正するものの、10年近くの時差はマーケットシェア等において大きな差を生むこととなった。上記(2)の顧客との関係構築・管理については、テレビCM等メディア広告の重視、地方都市も含めた販売・サービス体制の拡充という方向性において概ね共通している。上記(3)のサプライチェーン管理も、現地調達・現地生産の推進によってコストを抑制するという意味で、共通点が多い。以上、MDCの3要素の中で、商品開発管理に関する差異が大きい一方、その他の要素で大きな違いが見られないため、考慮すべき順番の違いであるとの解釈も成り立つ。実際、日本企業は提携先、生産体制・サプライチェーン、労務管理から考え、「消費者理解・現地ニーズの把握」が後手に回る傾向にある。インドのような新興国ビジネスにおいては、商品開発とそれに先立つ現地ニーズの把握を先行させるなど、MDCの3要素に関して、考慮すべき順番が重要な役割を果たすと推測される。このほか、MDCの枠組みでは捉えきれない観点として、「本社と現地法人のコミュニケーション」といった要素も重要になると考えられる。

著者関連情報
© 2013 国際ビジネス研究学会
前の記事 次の記事
feedback
Top