抄録
本稿は、新興国子会社の能力構築における本国親会社の調整メカニズムのあり方を検討することを目的としている。
国際ビジネス研究では、本国親会社による調整メカニズムは集権化、公式化、社会化の 3 つに大別され、3 者は互いに補完関係にあるとされる。なかでも社会化による管理手法は、理想的な海外子会社マネジメントとして総じて好意的に議論されてきた。組織行動論の文脈では、過度の組織社会化にはデメリットがともなうことが指摘されているのにもかかわらず、国際ビジネス研究ではそのデメリットを検証した研究は乏しいのが現状である。他方、海外子会社が高い経営成果を挙げるためには、海外子会社の能力構築が不可欠であり、そこでは本国からの知識移転と現地での知識創発の両者が重要であることが指摘されている。しかし、先行研究では、上述の問題意識を踏まえて、本国親会社の調整メカニズムが両者に及ぼす影響を詳細に分析してこなかった。
そこで、本稿では、日系多国籍企業 A 社の成功事例であるタイ拠点とカンボジア拠点の比較検討を通じて、(1)本国親会社による調整が、本国からの知識移転および現地での知識創発に及ぼす影響、(2)これらが海外子会社の競争力に及ぼす影響を分析する。
事例分析および比較分析の結果、主に次の 2 点が明らかになった。第 1 に、本国親会社による調整(集権化,公式化,社会化)は、全ての調整が低い場合と比べて、知識移転を促進するが知識創発を抑制する。第 2 に、本国からの知識移転と現地の知識創発はともに海外子会社の競争力に貢献するが、両者はトレードオフの関係にあり両立・同時達成は容易ではない。
以上の結果を踏まえて、海外子会社の 2 つの成功パターンを析出した。第 1 に、調整メカニズムの中でも社会化の強化を図り本国からの知識移転を促進した後に、脱組織社会化を講じて現地での知識創発を促すパターンである。第 2 に、3 つの調整手法による管理を意図的に抑制してまず知識創発を促し、その後に組織再社会化を図り、本国からの知識移転を促進するパターンである。ただし、本稿には、さらなる実証研究の必要および変数の構成要素等を考慮してより詳細な分析を行う必要などの課題も残されている。