国際ビジネス研究
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研究論文
半導体ファウンドリ・ビジネスにおける業績格差と成功要因
台湾TSMCとUMCの比較を通して
岸本 千佳司
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2016 年 8 巻 1 号 p. 27-43

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抄録

台湾は、1990 年代以降、半導体産業における「設計と製造の分業」のトレンドに逸早く乗じ、専業ファウンドリ (ウェハプロセスの受託製造業) という新たなビジネスモデルを打ち出し台頭していった。他方、日本半導体産業の衰退は「分業を嫌い続けた」ことが大きな原因と指摘されている。これは、ファウンドリの IDM に対するビジネスモデル上の勝利と見做されている。ところで、ファウンドリ業界の近年の特徴として、最先端プロセス開発とそれを踏まえた生産ライン構築の資金的・技術的難易度が上昇し、それを背景に業績格差、とりわけ業界 Top の TSMC と 2 位以下のメーカーとの格差が広がっていることがある。既存研究では、ファウンドリ業界内でのこうした格差については十分検討されていない。そこで本研究は、TSMC および同社と同じく台湾企業であり業界 No.2 でもある UMC の比較分析を通して、その点に光を当てる。具体的には、両社の収益性と生産能力、プロセス技術開発に関する数値データと関連資料を分析し、格差の実態とこれら要素間の関連性を検討する。これは同業界での成功要因を明らかにすることにも繋がる。

その結果、生産能力増強と先端プロセス開発での競争でライバルに先んじることで顧客の支持と市場シェアを獲得し、そこから収益確保 (と株価上昇) へ、そして次世代の研究開発・設備投資へと繋がる成長の「正の循環」の存在を見出す。これが格差拡大の基本的背景でもある。さらに、格差を一層加速する半導体製造業界特有の事情として、①ムーアの法則 (微細化によるチップの性能向上と製造コスト低減が長期間にわたって幾何級数的に続き、それによって半導体メーカーの利益を確保しながら半導体ユーザーのニーズに応えられる環境) を背景とする不断の先端プロセス開発競争と近年その微細化が物理的限界に近づいたことによる技術的・資金的難易度の一層の上昇、および② Top ファウンドリ (TSMC) のプロセス技術が業界標準化し、同社を中心に半導体設計・製造のエコシステムが発展しているという状況を指摘する。

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© 2016 国際ビジネス研究学会
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