国際保健医療
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活動報告
ドミニカ共和国ダハボン州における母子健康手帳の普及:持続性・波及性の観点からみた効果と課題
清水 育子
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2007 年 22 巻 3 号 p. 153-161

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抄録
方法・目的
ドミニカ共和国の北西、ハイチ国境沿いに位置するダハボン州において、保健省ダハボン州事務所と米州開発銀行(IDB)ジャパンプログラムは、母子保健向上パイロットプロジェクトの主要ツールとして母子健康手帳(以下、母子手帳)を導入した。本稿では、筆者がIDBコンサルタントとして本プロジェクトに携わった経験を基に、母子手帳の普及活動と結果を述べ、その持続性と波及性に言及し、他地域で類似活動を行う上で参考になる一例としたい。
活 動
プロジェクトの活動は大きく3つのフェーズ(段階)に分けることができる。第1フェーズは母子手帳の開発、地元の人々の意識向上と保健従事者のキャパシティー・ビルディング、そしてモニタリング等の体制づくりがその主な活動となった。第2フェーズは継続的な能力開発とユーザーの視点に立った母子手帳の内容と使用システムの改善で特徴づけられる。第3フェーズはプロジェクトの持続性向上が主な課題となり、州が自立的・安定的にプロジェクトを運営するための人材と資金の確保が試みられた。
結 果
359人の保健従事者がトレーニングを受け、母子手帳は州の22の保健医療機関と私立クリニックにおいても普及し、普及率は98%前後に達した。母子保健サービスの状況においては妊産婦の出産前後の受診率が増加し、子どもの定期健診システムも導入され、予防接種など予防医療の面で改善が見られた。また、母子手帳というシンプルなツールが、保健従事者や妊産婦・父親の態度と行動に変化をもたらすことが観察された。
結 論
本プロジェクトはIDBの技術協力が終了した現在、自立的に運営されている。この背景には、ボトムアップ・アプローチでユーザー主体型の母子手帳改善を図り、ユーザーの継続的能力開発に努め、現場レベルで母子手帳の使用が浸透し制度化(institutionalize)されたこと、またトップダウン・アプローチで中央政府から資金と人件面のサポートを得て、母子手帳が地域保健サービスのシステムのなかに組み入れられた(systematize)ことが挙げられる。母子手帳がドミニカ共和国の他の州、ゆくゆくは中南米カリブの隣国に波及する為には、母子手帳を活用できる保健サービスの体系と人材が必要条件だと思われる。
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© 2007 日本国際保健医療学会
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