抄録
背 景
スリランカは南アジアの赤道直下に位置する開発途上の多民族国家で、人口約2,000万人で面積は北海道より少し小さい島国である。社会体制は社会主義国で1,200余の病院のうち8割強が国営で医療費は無料である。周辺国と比べて識字率が高く、母子保健や成人に対する政府の保健指導が成果を上げてきている。我が国(JICA)の専門チームの協力による分析に基づき最近公表されたスリランカ保健省のヘルスマスタープラン(HMP)によると、この国の健康問題は疫学と医療経済の視点から3つの健康問題に類型化され、それらは母子感染症、デング熱などの感染症等のi)継続的な問題(Continuing Problems)、HIV/AIDS等のii)近年出現し脅威となってきている問題(Emerging Problems)および近年の経済的発展、長寿化に伴い台頭してきた生活習慣病等のiii)進化してきている問題(Evolving Problems)である。近未来にこれらの問題がスリランカの国民の健康と経済および国家の医療経済等に多重の負荷を強いることが懸念されている。
JICA技術支援プロジェクト
こうした未来の多重負荷による破局的状態を回避するための第1段として、スリランカ政府の要請を受けたJICAによって第一次予防による非感染性疾患を対象とした保健指導技術支援プロジェクトが既に開始されている。更に第2段として重点的に援助すべき医療保健の技術支援新プロジェクトのターゲットとプロジェクト内容を提言すべく、代表的感染性疾患、非感染性疾患59種類の1983-2003年の入院患者の推移の傾向分析を行った。その結果、統計学的に増加傾向が明らかな疾患は15あり、このうち9疾患が非感染性疾患であった。そのうち生活習慣病である虚血性心疾患、脳血管障害等はスリランカのおける直近の5大死因のうちの4つを占めている。これらのことから第一次予防を基本に、生活習慣病のハイリスク者の発見と早期改善システムを組み合わせるプロジェクトが保健省に提言された。プロジェクトの基本的な流れは生活習慣病に対する第一次予防が定着しつつある複数の地域において2段階スクリーニングにより、肥満、高血圧、高コレステロール、高血糖、不良生活習慣等のハイリスク者を選別し、もよりの病院において精査し通院、定期検査、入院群の3群に分け、継続的に健康管理の支援を行うシステムである。
幸い、保健省はこの提言に基づき我が国に生活習慣病予防、ハイリスク者対策技術支援プロジェクト要請し、その結果予算化され本年度から正式に開始すべくJICAの具体的準備が進んでいる。