抄録
目的
妊産婦死亡率が高いモロッコ王国では、その改善に向けた取り組みの一環として妊婦健診の普及が進められている。しかし農村部での受診率は低いままであるのが現状である。その理由はある程度考えられるものの、具体的な要因は明らかではない。そこで本研究では、当国一農村地域に住む女性たちの妊婦健診受診行動を規定する要因を検討することを目的とした。
方法
当国一農村に住む産後の女性19名を対象として、フォーカス・グループ・インタビューを実施した。またその内容を補完するため、個人インタビュー、保健統計資料の収集を行った。得られたデータを、グラウンデッド・セオリー・アプローチの手順に従い質的に分析し、受診行動に影響すると考えられる要因を検討した。
結果
受診行動を規定する要因として6カテゴリーが得られた。対象地域の女性たちは妊娠を自然現象と捉え、妊娠中の健康管理や問題意識は希薄である一方で、胎動開始時期のずれは問題と捉える等【地域独自の妊娠に対する考え方】があった。2002年、当地域に近代医療が導入されたことで、女性たちに【健診行為への肯定的感情】と【近代医療者への信頼】が芽生えた。しかし2008年に近代医療が中断した後は、地域圏外の医療施設へ行く【経済的負担】と【同伴者の必要性】の問題が生じることとなった。また、【受診決定権を持つ夫の考え方】が受診を左右していた。
結論
対象地域で妊婦健診受診を定着させるには、医療体制の改善が不可欠である。しかし、これまで伝統的な妊娠生活を営んできた女性たちにとって、一時期ではあるが近代医療が導入されたことは、受診への肯定的感情を芽生えさせるきっかけとなり、今後医療体制が整った際に、受診行動への促進要因として引き継がれていくものと考えられた。