2017 年 32 巻 4 号 p. 217-231
目的
健康格差が少ない社会はソーシャルキャピタルが豊富なことや、ソーシャルキャピタルがマイクロファイナンスと関連していることを示す先行研究はあるが、マイクロファイナンスと健康との関連をソーシャルキャピタルの観点から説明する実証的な研究は限られている。本研究では、母子保健が主要な健康課題であるブルキナファソで、農村部と都市部の健康格差縮小に向けた対応への提言抽出を目指し、マイクロファイナンスに参加している女性のソーシャルキャピタルの特徴を探索することを目的とした。
方法
混合法の探索的順次デザインを用いた。質的研究では、母子の健康に寄与するソーシャルキャピタルの機能を探索するため、A保健区内の一農村でマイクロファイナンスに参加している女性11名とPhoto Voiceを実施し、討議結果を質的帰納的に分析した。続いて質的研究結果をもとに質問紙を開発し、同保健区の20~45歳の女性563人を対象とした質問紙調査を実施し、マイクロファイナンス参加群・非参加群の2群間比較等を行った。
結果
質的研究により、母子保健に寄与するマイクロファイナンスのソーシャルキャピタルの機能として、病気の際の現金の貸借や病院受診のための交通手段の貸借等の物質的支援、産前健診等の受診勧奨や家族計画の効果に関する情報提供などの情報的支援、病気の際の夫への報告などの情緒的支援が抽出された。量的研究から、マイクロファイナンスの参加群は全体の14.4%で、非参加群と比べソーシャルキャピタルの得点が有意に高いこと、下位項目では物質的支援、情緒的支援の得点が高いことが示された。情報的支援は質的研究結果に反し得点が低く、参加群と非参加群の得点に有意差もなかった。サポート源別では、マイクロファイナンスのメンバー間だけでなく、夫の拡大家族等、その他の村人と支援が授受されていた。
結論
マイクロファイナンスを通じたソーシャルキャピタルには物質的・情報的・情緒的支援の機能があり、支援の内容には、ブルキナファソ農村部の社会経済状況やヘルスシステムの特徴が反映されていた。マイクロファイナンス参加者のソーシャルキャピタルは非参加者よりも豊富だったが、支援の授受はメンバー間に限定されていなかった。マイクロファイナンスを通じたソーシャルキャピタルの効果を健康格差縮小に向けた施策に活用する場合、メンバー以外への波及を考慮する必要があると考えられた。