国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
32 巻, 4 号
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原著
  • 堀井 聡子, Kam Alimata, Kam Gouba Solange Esther, Minoungou Arsène, Tapsob ...
    2017 年 32 巻 4 号 p. 217-231
    発行日: 2017/12/20
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    目的

      健康格差が少ない社会はソーシャルキャピタルが豊富なことや、ソーシャルキャピタルがマイクロファイナンスと関連していることを示す先行研究はあるが、マイクロファイナンスと健康との関連をソーシャルキャピタルの観点から説明する実証的な研究は限られている。本研究では、母子保健が主要な健康課題であるブルキナファソで、農村部と都市部の健康格差縮小に向けた対応への提言抽出を目指し、マイクロファイナンスに参加している女性のソーシャルキャピタルの特徴を探索することを目的とした。

    方法

      混合法の探索的順次デザインを用いた。質的研究では、母子の健康に寄与するソーシャルキャピタルの機能を探索するため、A保健区内の一農村でマイクロファイナンスに参加している女性11名とPhoto Voiceを実施し、討議結果を質的帰納的に分析した。続いて質的研究結果をもとに質問紙を開発し、同保健区の20~45歳の女性563人を対象とした質問紙調査を実施し、マイクロファイナンス参加群・非参加群の2群間比較等を行った。

    結果

      質的研究により、母子保健に寄与するマイクロファイナンスのソーシャルキャピタルの機能として、病気の際の現金の貸借や病院受診のための交通手段の貸借等の物質的支援、産前健診等の受診勧奨や家族計画の効果に関する情報提供などの情報的支援、病気の際の夫への報告などの情緒的支援が抽出された。量的研究から、マイクロファイナンスの参加群は全体の14.4%で、非参加群と比べソーシャルキャピタルの得点が有意に高いこと、下位項目では物質的支援、情緒的支援の得点が高いことが示された。情報的支援は質的研究結果に反し得点が低く、参加群と非参加群の得点に有意差もなかった。サポート源別では、マイクロファイナンスのメンバー間だけでなく、夫の拡大家族等、その他の村人と支援が授受されていた。

    結論

      マイクロファイナンスを通じたソーシャルキャピタルには物質的・情報的・情緒的支援の機能があり、支援の内容には、ブルキナファソ農村部の社会経済状況やヘルスシステムの特徴が反映されていた。マイクロファイナンス参加者のソーシャルキャピタルは非参加者よりも豊富だったが、支援の授受はメンバー間に限定されていなかった。マイクロファイナンスを通じたソーシャルキャピタルの効果を健康格差縮小に向けた施策に活用する場合、メンバー以外への波及を考慮する必要があると考えられた。

  • Md. Rafiqul Islam, Naoko Yoshida, Hirohito Tsuboi, Tey Sovannarith, Ea ...
    2017 年 32 巻 4 号 p. 233-242
    発行日: 2017/12/20
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    Background and Objectives

      Falsified or substandard antimicrobials present a health hazard to patients, and may promote antimicrobials resistance. We conducted a four-year study to evaluate the quality of selected antimicrobials and to examine the prevalence of falsified or substandard antimicrobials in Cambodia, aiming to promote efforts to improve the quality of medicines in Cambodia.

    Methods

      We collected samples of clarithromycin, sulfamethoxazole/trimethoprim, ceftriaxone, cefuroxime, levofloxacin, gentamicin, ciprofloxacin, fluconazole, nalidixic acid, ofloxacin, phenoxymethyl penicillin and roxithromycin products from several different types of drug outlets in five provinces (rural areas) and Phnom Penh (an urban area), during 2011 to 2014. The authenticity of the collected medicines was investigated, and the medicines were analyzed to determine whether they met the appropriate pharmacopoeial standards.

    Results

      We collected 647 samples, produced by 179 manufacturers, from 353 outlets. Only 51 (15%) of the outlets were air-conditioned. We found different-coloured packaging of the same brand (different lots) of products from some manufacturers. The insert information of one sample was different from the package information. Twelve (1.9%) samples were not officially registered with Department of Drug and Food (DDF). In authenticity investigation, 43 of 179 manufacturers replied and confirmed the authenticity of 154 samples (out of 647); also, 18 out of 40 Medicine Regulatory Authority (MRA) replied to enquiries about whether products were licensed or not (one was not). Among the samples, 424 (80.4%), 406 (86%) and 533 (90.6%) passed in dissolution, content uniformity and quantity tests, respectively. Samples of cefuroxime and roxithromycin that failed were significantly cheaper than those that passed.

    Conclusion

      Poor-quality antimicrobials were found in Cambodian markets, though no falsified medicines were detected. Result of samples were not confirmed in authenticity, so it was possible to include falsified medicines. Manufacturers should be encouraged to improve GMP implementation. Storage conditions in the distribution chain may also need to be improved. Continuous efforts by stakeholders are needed to ensure that medicines are properly licensed.

活動報告
  • 依田 健志, 鈴木 裕美, 倉藤 利早, 宮武 伸行, 徳田 雅明, 平尾 智広
    2017 年 32 巻 4 号 p. 243-248
    発行日: 2017/12/20
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

      ブルネイ・ダルサラーム国(以下ブルネイ)における生活習慣病は非常に深刻化しており、速やかな対策が求められているが、未だに有効な手段が無い状態である。我が国は2008年より生活習慣病予防に特化した健康診査(特定健康診査)を開始し、その結果からメタボリックシンドロームの進展を予防するための保健指導(特定保健指導)を40~74歳の全国民を対象に行っている。この取り組みのノウハウを生かし、ブルネイで同様の特定健康診査・特定保健指導を導入することで、同国の生活習慣病予防につながると考え、2015年に導入研修を開始した。

      研修は主にブルネイ側から健康政策担当者や生活習慣病対策に従事する医療関係者を日本に招き、特定健康診査・特定保健指導に関するセミナーを開催し、概念の理解から自分達で指標を基に階層化・保健指導できるよう講習した。その後日本から指導担当者らがブルネイを訪問し、現地での導入例を見学し、今後の進展について議論した。まだ導入開始したばかりではあるが、特定健康診査に関しては独自のやり方で浸透しつつあり、また保健指導に関しても少しずつではあるが実行できているため、今後は実施者の増員と、実施のための指導者講習会が必要であると考える。これらの取り組みが成功すれば、影響はブルネイだけではなく周辺イスラム諸国(インドネシア・マレーシア)へも展開が可能になると考えられるため、今後も体制を盤石にし、協力していく必要がある。

  • —「アフリカ仏語圏地域母子保健集団研修」の経験から—
    岩本 あづさ, 堀越 洋一
    2017 年 32 巻 4 号 p. 249-259
    発行日: 2017/12/20
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    背景と目的

      国立国際医療研究センター国際医療協力局は、国際協力機構 (Japan International Cooperation Agency、以下JICA)の委託により、2003年から毎年「アフリカ仏語圏地域母子保健集団研修」を実施してきた。その中で研修員達が、研修中の見聞をそのまま自国へ持ち帰っても、日本と異なる状況の中で現場に適用させることは難しいことが、明らかになってきた。それを克服する方策の1つとして、「母子保健サービスの改善」という中心主題への親和性が高いと考えられた「ラボラトリー方式の体験学習(以下、「体験学習」)を導入した。しかし、研修員の多くは「体験学習」を研修期間全体の学びの手段として意識できず、「体験学習」と「その後の研修プログラム」を別々に捉えてしまい、「体験学習」を十分に活かしていないという課題が事後調査等から抽出された。そのため、2013年度の研修では「体験学習」の方法に工夫を加え、いくつかの新しい取り組みを導入し、研修生が「体験学習」を、研修全期間を通じた学びの方法として意識的に活用できるための工夫を行った。

    方法と活動内容

      本研修の参加者は、来日前に自国にあるJICA事務所に提出する「インセプションレポート」を「体験学習」の題材として活用し、グループワークによって全研修員の共通課題を抽出した。また、共通課題の「マトリックス」を全研修員で一つ作成し、分析ツールとして活用した。さらに毎週末、研修のふりかえりの時間を設けた。これら全ての過程において、研修を通じて気づいたこと、感じたこと、学んだことを全員で繰り返し話し合い、合意内容を「マトリックス」内に加筆していった。これらの新しい取り組みにより、研修開始時の「体験学習」が研修全期間を通じた学びの方法として以前より意識的に活用できるようになったと考えられた。また研修員それぞれが「自分達自身が学びのリソースである」ことを意識して、その後のグループワークや議論に積極的に参加し学びを深める機会を増やすことができた。

    結論

      仏語圏アフリカからの参加者を対象とした母子保健集団研修に「体験学習」を取り入れ、その活用方法を工夫することで、研修開始時の「体験学習」を研修全期間を通じた学びの方法として以前より意識的に活用できるようになった。また、本研修の「体験学習」から得た「自分を含む自分達自身が貴重なリソースである」という気づきは、自国でのそれまでの働き方を違った視点で見ることができる力にもなると考えられた。

資料
  • —カメルーン共和国ヤウンデ市の保健センターにおける調査—
    沼倉 和美, 窪田 和巳, 徳永 瑞子
    2017 年 32 巻 4 号 p. 261-270
    発行日: 2017/12/20
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

    目的

      本研究では、カメルーン共和国において、母親のマラリアに関する知識の実態を把握した上で、母親のマラリアに関する知識と子どもへの予防対策との関連を明らかにした。

    方法

      2014年8月から9月に、カメルーン共和国ヤウンデ市のA保健センターへ予防接種に来ていた5歳未満児の実子を養育している母親50名を対象とし、筆者らが作成した質問紙をもとに聞き取り調査を行なった(回収率:100%)。質問紙は、母親のマラリアに関する知識、母親が子どもに実施している予防対策、マラリアの情報源、および対象者の属性により構成された。母親のマラリアに関する知識の項目(全4項目)を独立変数、子どもに実施している予防対策(全1項目)を従属変数として共分散分析を行った。分析の際には、対象者の属性を共変量として投入した。母親の年齢とマラリアの原因に関する知識について、それぞれ子どもへのマラリア罹患予防対策としての蚊帳の使用状況との関連においてX2検定を行った。

    結果

      対象のうち、マラリアの原因について「蚊の刺咬」を知っている人は40人(80.0%)、知らない人は10人(20.0%)、マラリアの情報源として「病院や診療所の医療関係者(医師、看護師、助産師)」は39人(78.0%)、「テレビ」は26人(52.0%)であった。

      マラリアに関する知識の項目(全4項目)と子どもに実施している予防対策の項目(全1項目)との関連において実施した共分散分析では、すべての組み合わせにおいて有意差が認められた。

      マラリアの原因に関する知識と子どもへのマラリア罹患予防対策としての蚊帳の使用状況との関連において、X2検定では有意傾向が認められた。

    結論

      本研究から、マラリアの原因、症状、予防対策、経済的負担に関して知識のある母親は、マラリアの予防対策を実施していることが明らかになった。

      これらのことから、適切な予防対策によりマラリア罹患率や5歳未満児死亡率を減少させるために、マラリアの原因や蚊の習性を含めた正しい知識の普及が重要である。

  • Masateru Higashida
    2017 年 32 巻 4 号 p. 271-279
    発行日: 2017/12/20
    公開日: 2018/01/10
    ジャーナル フリー

      Whilst practical strategies and conceptual frameworks of community-based rehabilitation (CBR) and community-based inclusive development (CBID) are well-documented by stakeholders globally, the approaches and skills of social workers at the meso- and community-levels have likely been addressed inadequately. This article aims to explore the integration of developmental social work with CBR/CBID. Drawing on the theory and concepts of developmental social work that have an affinity with those of CBR/CBID, this paper argues that the integration is practically useful and feasible for social workers and other professionals in CBR/CBID at the grassroots level. In particular, social investment, a comprehensive and multi-sectoral approach, development of local resources, and capacity development are emphasised to realise human rights and to promote the socioeconomic equality of disabled people. Such an integration also suggests the importance of ethnic- and culture-sensitive practice and reflects on power relationships. Based on these practical approaches and perspectives, a case of social workers is analysed using published field practice documents in the national CBR programme in rural Sri Lanka. The findings suggest that developmental social work could address the vicious cycle of inadequate education, poverty, and marginalisation in order to promote inclusive socioeconomic development. Despite some limitations of the arguments, this study suggests that future research could examine the integration of developmental social work with CBR/CBID in other fields.

地方会報告
第32回 日本国際保健医療学会学術大会 ベスト口演賞・ベストポスター賞受賞報告
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