国際保健医療
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研究報告
日本の看護基礎教育におけるグローバルヘルス・コンピテンシー教育の現状と課題
今村 恵美子山内 豊明
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2021 年 36 巻 4 号 p. 169-180

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抄録

目的

  本研究の目的は、看護師養成施設の看護教員に対し、基礎教育課程の看護学生に必要とされるグローバルヘルス・コンピテンシー(GHC)教育に関する意識や展望、自施設でのGHC教育の実際等について調査し、日本におけるGHC看護教育の現状と課題について把握することである。

方法

  2015年7月~2016年8月および2017年1~3月、看護系大学・短期大学の学部長・学科長248名、看護専門学校の校長719名およびそれ以外の看護教員を対象に、無記名自記式の調査票(アメリカで開発された調査票[Wilson et al., 2012]の日本語訳)をウェブまたは郵送により配布・回収し、質的内容分析研究を実施した。回答者の属性は記述的に分析し、調査票の自由記述欄で得られたGHC教育に関する回答者の意見はNVivo 11 Plusにてソースを概念別にコーディングし、意味内容の近いデータをコアカテゴリーとしてまとめ内容を分析した。

結果

  有効回答数は331名(73.9%)で、校長135名(40.8%)、学部長66名(19.9%)およびそれ以外の看護教員であった。自由記述欄には、「グローバルヘルスは今後学士課程の教育において重要」等日本の更なるグローバル化に備えて看護基礎教育におけるGHC教育を推進する意見が寄せられた。一方、「アメリカのGHC教育項目を日本の看護基礎教育で実施すること」に関しては、「分析やアセスメント能力は高度」、「教育カリキュラムの相違のためアメリカのGHC項目をすべて日本で教育するのは困難」とする意見が挙がった。また、教育時間や人材の不足、過密なカリキュラムの中で新たにGHC教育を導入することは難しいとする意見が多くの回答者、特に専門学校教員より強調された。しかし、このようにGHC教育の障壁となる様々な要因が表出される中、「GHC教育を既存の科目の中に組み込む」「他学部の学生や教員とともに学び合う」「限られた時間の中で何を教授するか内容を精選する」等、GHC教育を推進するための提案や工夫、展望が示された。

結論

  以上の結果から、日本の看護教育現場では、GHC看護教育の必要性が意識されながらも、GHC教育のための時間や人材、理解の不足、カリキュラムが過密で余裕がない等のため、GHC教育を導入・実施することが困難となっている現状と課題が把握された。これらを打開し学生へのGHC教育を普及するために、「FDを実施し教員全体のGHC教育への理解と意識を高める」「実施可能なことから徐々にGHC教育を進めていく」等、具体的な論議の必要性が示唆された。

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