2021 年 36 巻 4 号 p. 181-194
目的
日本では、言葉の壁が日本語を母語としない人びとの医療サービス、健康情報へのアクセスを阻んでいると指摘されてきた。言葉の壁を乗り越える方法として「やさしい日本語」が検討されている。これは私達が普段何の調整も加えず使っている日本語ではなく、相手の日本語能力に合わせて調整した言葉である。本研究は「やさしい日本語」の運用に繋げることをねらいとし、日本語を母語としない人びと向けに日本語の医療文章を書き換えるための看護学生のスキルと知識を明らかにすること、それらを向上させるための介入方法を検討することを目的に行った。
方法
横断研究と介入研究の2段階で実施した。それぞれデータは自記式質問票を用いて収集し、スキルと知識を評価した。横断研究は77人を対象に2019年に実施した。スキルと知識を要約した上で、フィッシャーの正確確率検定でスキルと知識の関連を、マクネマー検定で2つの例文におけるスキルの関連を調べた。さらに、例文の書き換えで使用された難しい言葉を要約した。介入研究は76人を対象に2020年に実施した。同意の得られた対象者に「やさしい日本語」の知識の教授を実施し、その前後でデータ収集した。スキルと知識を要約した上で、スキルと知識、および2つの例文におけるスキルの関連を横断研究と同様に調べた。また、介入後のスキルと知識の変化をウィルコクソンの符号順位検定で調べた。
結果
横断研究では76人が回答した。スキルの総合判定の中央値は5点中の4点であった。知識項目の回答数の中央値は16項目中2項目であった。スキルと知識、2つの例文の書き換えスキルの間に有意な関連は認めなかった。介入研究では、介入前の第1回で20人が、介入後の第2回で9人が回答した。2つの例文の書き換えスキルの間に有意な関連を認めた(p値=0.04)。介入前後のスキルおよび知識に違いを認めなかった。
結論
横断研究において、参加者らが回答した知識項目数は少なかったが高いスキルを示した。このことから、「やさしい日本語」を教授する介入を受けることでよりスキルを発揮できるのではないかという仮説のもと介入を実施したが、今回の介入においては、効果を認めなかった。介入にあたっては、ウェブプログラムなどのツールの使用を含めた介入内容、双方向的に行う等の介入方法、そして適当な介入時間について更に検討する必要があると考えられる。