国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
36 巻, 4 号
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研究報告
  • 地引 英理子, 杉下 智彦
    2021 年 36 巻 4 号 p. 153-168
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/01
    ジャーナル フリー

    目的

      本研究では日本人の医療及び非医療従事者が保健関連の国際機関へ就職を考慮するに当たり、いかなる勤務条件が揃えば望ましい選択肢として選択するかを「離散選択実験(Discrete Choice Experiment)」の手法を用いて明らかにするために、その第一段階として質的調査により対象者が重視する「属性(Attributes)」を分析するとともに、選択属性に合致した就職支援策を提言する。

    方法

      日本人の医師、看護職、公衆衛生大学院卒業者、非医療従事者、学生等で①保健関連の国際機関への就職を希望する人(以下、希望者グループ)、②現在就職している人(以下、現職者グループ)、③過去に就職していて離職した人(以下、離職者グループ)の合計20人を対象に、予め用意した11の属性から、国際機関勤務に当たって重視する属性を全て選び順位付けしてもらった上で、半構造化インタビュー調査を実施した。逐語録を作成し属性に関する内容を抽出後、グループ毎にコード化・カテゴリー化し、他のグループの回答と比較、分析した。

    結果

      対象者が重視する属性を点数化した結果、全グループで国際機関勤務に当たって重視する属性として「仕事の内容」、「自己実現の機会」、「能力向上の機会」が上位3位を占め、次いで「勤務地」が同率2位(現職者グループ)と4位(希望者・離職者グループ)だった。しかし、希望者・現職者グループを通じて「ワーク・ライフ・バランス」、「給与額」、「福利厚生の充実度」、「仕事の安定性(長期契約)」といった勤務条件面への重視は全11属性中5位~8位と中位から下位を占めた。また、両グループで「帰国した時の所属先の有無」は9位、「子供の教育の機会」と「配偶者の仕事の機会」は同率10位だった。離職者グループでは「ワーク・ライフ・バランス」と「仕事の安定性(長期契約)」は同率5位を占め、その他の属性は選択されなかった。

    結論

      保健関連の国際機関勤務を目指す日本人は、より良い待遇や職場・生活環境よりも、経験や専門性を活かし、能力向上や自己実現を求めて国際機関を受ける傾向があることが分かった。より多くの人材を国際機関に送り出すための支援策として、属性の選択順位に従い、第一義的には国際機関勤務のやりがいに関するキャリア・ディベロップメント・セミナーの開催が有効と考えるが、国際機関におけるワーク・ライフ・バランス、女性の働きやすさ、給与とセットにした福利厚生制度に関する広報も有効と考える。また、インタビューを通じて明らかとなった国際機関の雇用契約の不安定さと「帰国後、国際機関での経験を正当に評価し受け入れてくれる組織・病院が少ない」という課題に関して、中長期的には帰国者の受入機関の増加のための働きかけが必要と考える。

  • 今村 恵美子, 山内 豊明
    2021 年 36 巻 4 号 p. 169-180
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/01
    ジャーナル フリー

    目的

      本研究の目的は、看護師養成施設の看護教員に対し、基礎教育課程の看護学生に必要とされるグローバルヘルス・コンピテンシー(GHC)教育に関する意識や展望、自施設でのGHC教育の実際等について調査し、日本におけるGHC看護教育の現状と課題について把握することである。

    方法

      2015年7月~2016年8月および2017年1~3月、看護系大学・短期大学の学部長・学科長248名、看護専門学校の校長719名およびそれ以外の看護教員を対象に、無記名自記式の調査票(アメリカで開発された調査票[Wilson et al., 2012]の日本語訳)をウェブまたは郵送により配布・回収し、質的内容分析研究を実施した。回答者の属性は記述的に分析し、調査票の自由記述欄で得られたGHC教育に関する回答者の意見はNVivo 11 Plusにてソースを概念別にコーディングし、意味内容の近いデータをコアカテゴリーとしてまとめ内容を分析した。

    結果

      有効回答数は331名(73.9%)で、校長135名(40.8%)、学部長66名(19.9%)およびそれ以外の看護教員であった。自由記述欄には、「グローバルヘルスは今後学士課程の教育において重要」等日本の更なるグローバル化に備えて看護基礎教育におけるGHC教育を推進する意見が寄せられた。一方、「アメリカのGHC教育項目を日本の看護基礎教育で実施すること」に関しては、「分析やアセスメント能力は高度」、「教育カリキュラムの相違のためアメリカのGHC項目をすべて日本で教育するのは困難」とする意見が挙がった。また、教育時間や人材の不足、過密なカリキュラムの中で新たにGHC教育を導入することは難しいとする意見が多くの回答者、特に専門学校教員より強調された。しかし、このようにGHC教育の障壁となる様々な要因が表出される中、「GHC教育を既存の科目の中に組み込む」「他学部の学生や教員とともに学び合う」「限られた時間の中で何を教授するか内容を精選する」等、GHC教育を推進するための提案や工夫、展望が示された。

    結論

      以上の結果から、日本の看護教育現場では、GHC看護教育の必要性が意識されながらも、GHC教育のための時間や人材、理解の不足、カリキュラムが過密で余裕がない等のため、GHC教育を導入・実施することが困難となっている現状と課題が把握された。これらを打開し学生へのGHC教育を普及するために、「FDを実施し教員全体のGHC教育への理解と意識を高める」「実施可能なことから徐々にGHC教育を進めていく」等、具体的な論議の必要性が示唆された。

  • 松浦 未来, 荒川 若葉, 服部 記奈, 樋口 倫代
    2021 年 36 巻 4 号 p. 181-194
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/01
    ジャーナル フリー

    目的

      日本では、言葉の壁が日本語を母語としない人びとの医療サービス、健康情報へのアクセスを阻んでいると指摘されてきた。言葉の壁を乗り越える方法として「やさしい日本語」が検討されている。これは私達が普段何の調整も加えず使っている日本語ではなく、相手の日本語能力に合わせて調整した言葉である。本研究は「やさしい日本語」の運用に繋げることをねらいとし、日本語を母語としない人びと向けに日本語の医療文章を書き換えるための看護学生のスキルと知識を明らかにすること、それらを向上させるための介入方法を検討することを目的に行った。

    方法

      横断研究と介入研究の2段階で実施した。それぞれデータは自記式質問票を用いて収集し、スキルと知識を評価した。横断研究は77人を対象に2019年に実施した。スキルと知識を要約した上で、フィッシャーの正確確率検定でスキルと知識の関連を、マクネマー検定で2つの例文におけるスキルの関連を調べた。さらに、例文の書き換えで使用された難しい言葉を要約した。介入研究は76人を対象に2020年に実施した。同意の得られた対象者に「やさしい日本語」の知識の教授を実施し、その前後でデータ収集した。スキルと知識を要約した上で、スキルと知識、および2つの例文におけるスキルの関連を横断研究と同様に調べた。また、介入後のスキルと知識の変化をウィルコクソンの符号順位検定で調べた。

    結果

      横断研究では76人が回答した。スキルの総合判定の中央値は5点中の4点であった。知識項目の回答数の中央値は16項目中2項目であった。スキルと知識、2つの例文の書き換えスキルの間に有意な関連は認めなかった。介入研究では、介入前の第1回で20人が、介入後の第2回で9人が回答した。2つの例文の書き換えスキルの間に有意な関連を認めた(p値=0.04)。介入前後のスキルおよび知識に違いを認めなかった。

    結論

      横断研究において、参加者らが回答した知識項目数は少なかったが高いスキルを示した。このことから、「やさしい日本語」を教授する介入を受けることでよりスキルを発揮できるのではないかという仮説のもと介入を実施したが、今回の介入においては、効果を認めなかった。介入にあたっては、ウェブプログラムなどのツールの使用を含めた介入内容、双方向的に行う等の介入方法、そして適当な介入時間について更に検討する必要があると考えられる。

活動報告
  • Masaki Ota, Kanako Koyama, Yukari Takemura-Onoe, Vainess Mfungwe, Grah ...
    2021 年 36 巻 4 号 p. 195-202
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/01
    ジャーナル フリー

    Objectives

      The authors conducted a technical assistance project on tuberculosis (TB) control in Bauleni, Chelston, and Chilenje, Lusaka, Zambia in 2012-2015. Herein we describe the project activities and achievements.

    Methods

      We trained community health volunteers (CHVs) and organized their activities. We evaluated the project considering the trends of TB cases, particularly the percent of bacteriologically confirmed TB cases among the presumptive (suspected) TB cases, and treatment outcomes.

    Results

      We organized training for the CHVs of three areas. The CHVs conducted a total of 160 community sensitizations attended by over 50 000 community members. They visited their assigned patients 23 716 times. At Bauleni, the number of bacteriologically positive (bac+) cases exhibited a decreasing trend (r = −0.55, p=0.03), whereas that of the presumptive TB cases exhibited an increasing trend (r = 0.70, p = 0.004). At Chelston, both the numbers of bac+ cases and the presumptive TB cases exhibited increasing trends (r = 0.52, p = 0.046 and r = 0.68, p = 0.005, respectively). At Chilenje, the number of bac+ TB cases exhibited a decreasing trend (r = −0.84, p < 0.001), whereas that of the presumptive TB cases did not change (r = 0.09, p = 0.76). In all three areas, the proportions of the bac+ cases among the presumptive TB cases exhibited decreasing trends (p < 0.0001 at all three clinics). The treatment success rates improved in Chelston and Chilenje from 50.7% and 61.9%, respectively, in early 2011 to 78.3% and 97.0%, respectively, in late 2014 (both p < 0.001). The treatment success rates of Bauleni maintained at over 85% in most quarters.

    Conclusion

      The activities of the project contributed to the strengthened local national TB programme, resulting in the decreased burden of TB in the areas.

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