国際保健医療
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研究報告
異文化による業務上の困難さを感じる保健師の特徴~首都圏における外国人居住者への母子保健活動を通して~
池田 絹代山﨑 恭子
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2022 年 37 巻 4 号 p. 199-209

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抄録

目的

  首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)にある保健行政機関に所属する保健師が近年増加する在留外国人への母子保健活動を行うときに感じる異文化体験とそのとき起こる困難さについて、保健師の業務経験や語学力、国際経験などの個人的背景と所属機関の管轄人口や利用できる社会資源などの所属する機関の特徴を明らかにする。

方法

  2019年12月中旬に母子保健事業を実施している首都圏の保健行政機関に質問紙を送付し、個別返送による郵送調査を実施した。保健師の個人的背景と所属機関の背景を記述統計で集計し、異文化体験とその時に困難さを感じた経験の有無で、χ²検定、フィッシャーの正確確率検定、Mann-WhitneyのU検定を行った。

結果

  有効回答数は、265通(17.7%)で、外国人居住者への母子保健活動を通して言語以外で異文化を感じたことがあると回答したものは246人(92.8%)、そのうち困難さを感じたものは212人(80.0%)と多くの保健師が言語以外の異文化でも困難さを抱えていた。外国人居住者への支援は47.9%の保健師が、「他の業務と同じ」と回答し、特別な活動ではなくなっているが、25.3%の保健師は、「どうしてよいかわからない」「できれば避けたい」と苦手意識を抱えていた。9割の保健師には海外旅行経験があったが、3か月以上の在留経験は5%と少なかった。

  異文化体験の有無は、保健師業務歴と母子保健活動歴の長さ、 外国人居住者への継続的な関わりの有無と母子保健事業一覧(英語・その他の言語)の有無、通訳の有無に有意な差がみられた。異文化体験による業務上の困難さの有無は、所属機関の外国人人口割合の多さに有意な差がみられた。一方、保健師の語学力、渡航経験などとの関連は見られなかった。また、随時通訳が利用できる保健師は10.6%で、所属機関での研修の実施が3.0%と低かった。

結論

  外国人人口割合の高い地域の保健師は、有意に業務上の困難さを抱えやすい傾向がみられたが、語学力や渡航経験などには関係なく、どのような保健師であっても困難さを抱える可能性があることがうかがえた。

  今後は、保健師の異文化や多様性への対応能力を養うために研修などの充実を図りつつ、より多様な社会資源を必要な時に利用できるように情報通信技術などを取り入れながら外国人居住者への対応を強化していく必要があると思われる。

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© 2022 日本国際保健医療学会
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