国際保健医療
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原著
訓練をうけた医療通訳者による通訳変更の種類と頻度
濱井 妙子永田 文子大野 直子西川 浩昭東野 定律
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2023 年 38 巻 4 号 p. 179-192

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抄録

目的

  訓練をうけた医療通訳者による通訳変更の実態とその特徴を明らかにすることを目的とした。

方法

  外国人患者受入れ拠点病院の外来診療で、ブラジル人患者、医師、病院提供の医療通訳者を対象に録音調査した。分析は逐語録上で逐次通訳の元となった発言を一つのセグメントとし、「通訳変更なし(正確な通訳)」と通訳者が元の発言を変更して訳出した単語やフレーズ「通訳変更あり」を特定してコーディングし、その種類と発生頻度を算出した。「通訳変更あり」は臨床的に「ネガティブ」と「ポジティブ」に分類し、それぞれ「省略」「付加」「言い換え」「自発的発言」の4種類に細分類した。ネガティブのうち「臨床上重大な影響の可能性がある通訳変更」つまりインシデントの可能性が否定できない通訳変更を特定して検討した。無作為抽出した診療20件を、3名のコーダーが独立してコーディングし、コーダー間信頼性を検討した。

結果

  分析対象は111診療で、診療一件あたりのセグメント数は平均67.9、14~186の範囲であった。100セグメントあたりの通訳変更数の平均値(標準偏差)は、正確な通訳は46.7(14.3)セグメント、ネガティブまたは影響なしの合計は46.1(17.9)個、種類別では「省略」27.2(10.3)個、「言い換え」10.4(6.9)個、「付加」6.0(5.0)個、「自発的発言」2.5(2.7)個、「インシデントにつながる可能性が否定できない」が<0.0(0.2)個であった。ポジティブの合計は26.2(11.9)個、種類別では「自発的発言」8.8(5.2)個、「言い換え」7.8(6.3)個、「付加」7.7(4.7)個、「省略」1.8(2.6)個であった。一分あたりのセグメント数とネガティブ通訳変更数には負の相関(r=-0.339)が認められた。

結論

  本研究では臨床上インシデントにつながる可能性のある通訳変更が極めて少なく、訓練をうけた医療通訳者の有効性が確認できた。医療者は医療通訳者のポジティブ通訳変更を含めた役割の重要性を認識し、外国人患者中心のチーム医療の一員として医療通訳者との協働方法を模索することが安全な医療提供につながることが示唆された。将来、日本の医療者が適切な文化的・言語的サービスを提供するためには、医療者の学部基礎教育に医療通訳者と外国人患者との協働方法について学べるカリキュラムを提供することが有効と考える。

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© 2023 日本国際保健医療学会
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