2025 年 40 巻 1 号 p. 1-14
目的
日本国内で結核を患う若年層の語学留学生は、母国での社会経験のなさ、入国後の支援者の不在、生活基盤の不安定さ等の社会的な脆弱さがあり、その支援の難しさが報告されているが、結核の症状発現から診断に至るまでの体験は十分に明らかにされていない。
本研究では、中国およびベトナム出生の語学留学生の結核の症状発現から診断に至るまでの体験を明らかにし、その特徴について考察を深め、当事者の視点に基づいた効果的な療養支援を探求することを目的とした。
方法
日本語学校に在籍する20歳代の中国およびベトナム出身の語学留学生を対象に、結核の症状発現から診断に至るまでの体験について、通訳者を伴い半構造化面接を実施した。同意を得て録音したデータは、翻訳会社に依頼して和訳と逐語録の作成を行い、質的データ分析法を用いて分析した。
結果
20-27歳の語学留学生10名(中国・ベトナム各5名)より研究協力の同意を得た。
本研究対象者の語学留学生は、来日当初から〈学費と生活費を捻出する難しさ〉に直面し、次第に〈来日初期の体調変化〉を自覚する。最初は自らの症状を楽観視し、市販薬等での自己対処を試みるが〈自分なりの対処では改善しない症状〉に気づき、受診の必要性を感じる。しかし、言葉や文化の違いから生じる【日本で受診する方法の不確かさ】ゆえに速やかに受診することができない。そのため友人や学校職員に相談し【日本で受診する方法の不確かさ】を解消していた。この【日本で受診する方法の不確かさ】を分岐点とし〈症状悪化による受診の決意〉〈母国での受診の選択〉〈近医受診では治らず専門医受診の決意〉という3つのプロセスが示された。
結論
結核発病期の体験の特徴として、経済活動を優先した体調を慮る生活のなさ、社会文化的背景から援助要請を控え、自己解決が難しい場合の援助要請、日本での受診方法が不明確であることによる受診の遅れ、言葉や文化の異なる日本で受診するためらいによる受診行動の抑制が示された。これらの特徴を踏まえ、結核の発病および受診・診断の遅れを未然に防ぐための支援を検討する必要性が示唆された。