国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
40 巻, 1 号
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原著
  • 野中 千春, 綿貫 成明, 森 真喜子
    2025 年 40 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/09
    ジャーナル フリー

    目的

      日本国内で結核を患う若年層の語学留学生は、母国での社会経験のなさ、入国後の支援者の不在、生活基盤の不安定さ等の社会的な脆弱さがあり、その支援の難しさが報告されているが、結核の症状発現から診断に至るまでの体験は十分に明らかにされていない。

      本研究では、中国およびベトナム出生の語学留学生の結核の症状発現から診断に至るまでの体験を明らかにし、その特徴について考察を深め、当事者の視点に基づいた効果的な療養支援を探求することを目的とした。

    方法

      日本語学校に在籍する20歳代の中国およびベトナム出身の語学留学生を対象に、結核の症状発現から診断に至るまでの体験について、通訳者を伴い半構造化面接を実施した。同意を得て録音したデータは、翻訳会社に依頼して和訳と逐語録の作成を行い、質的データ分析法を用いて分析した。

    結果

      20-27歳の語学留学生10名(中国・ベトナム各5名)より研究協力の同意を得た。

      本研究対象者の語学留学生は、来日当初から〈学費と生活費を捻出する難しさ〉に直面し、次第に〈来日初期の体調変化〉を自覚する。最初は自らの症状を楽観視し、市販薬等での自己対処を試みるが〈自分なりの対処では改善しない症状〉に気づき、受診の必要性を感じる。しかし、言葉や文化の違いから生じる【日本で受診する方法の不確かさ】ゆえに速やかに受診することができない。そのため友人や学校職員に相談し【日本で受診する方法の不確かさ】を解消していた。この【日本で受診する方法の不確かさ】を分岐点とし〈症状悪化による受診の決意〉〈母国での受診の選択〉〈近医受診では治らず専門医受診の決意〉という3つのプロセスが示された。

    結論

      結核発病期の体験の特徴として、経済活動を優先した体調を慮る生活のなさ、社会文化的背景から援助要請を控え、自己解決が難しい場合の援助要請、日本での受診方法が不明確であることによる受診の遅れ、言葉や文化の異なる日本で受診するためらいによる受診行動の抑制が示された。これらの特徴を踏まえ、結核の発病および受診・診断の遅れを未然に防ぐための支援を検討する必要性が示唆された。

研究報告
  • 勝 加奈子, 稲岡 希実子, 鈴木 元
    2025 年 40 巻 1 号 p. 15-27
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/09
    ジャーナル フリー

    目的

      在留ベトナム人労働者が、母国から日本へ移り住む事による生活習慣と疾病リスク因子の変化を検討した。

    方法

      2022年1月〜3月に、在留ベトナム人労働者15名へ、食事の変化を中心とした日常生活習慣について半構造化インタビューを行い質的に分析した。

    結果

      参加者は、男性6名、女性9名、平均年齢は25.5歳であった。在留資格は、技能実習9名、特定活動2名、技術・人文知識・国際業務4名で、在留期間は6ヵ月から8年の範囲であった。参加者の語りから、来日後の生活習慣の変化を示す100のサブカテゴリと31のカテゴリが抽出され、来日後の栄養バランスの偏り、果物摂取量の減少、間食は菓子、飲酒の機会が減少、運動量の減少といった、生活習慣の変化が確認された。

      日本での忙しさは、食事の変化や運動量減少の理由として語られた。また、来日後の様々なストレスが、生活習慣の変化の原因であると語る者もいた。加えて、本研究の参加者はベトナムで大きな病気は未経験であるが、来日後には、体重の変化、体調不良や自覚症状、脂質異常・高血圧・肝機能障害・貧血等健康診断の異常所見といった、疾病リスク因子に関連する語りがあった。

    結論

      本研究では、参加者の食生活や日常生活習慣の変化と来日後の体重増加や脂質異常などの健康診断の異常所見との関係が推察された。来日に伴う彼らの疾病リスクに関連した生活習慣の変化を知り早期に支援することが、非感染性疾患の発症や悪化を予防する上で重要である。

資料
  • 喜多 桂子, 高橋 謙造, 渡辺 鋼市郎
    2025 年 40 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/09
    ジャーナル フリー

      ポジティブ・デビアンス(ポジデビ)・アプローチは、特別な資源を持たずに課題をうまく解決している個人やグループ(ポジティブな逸脱者)を発見し、彼らの方法を普及することで問題解決を図る方法である。地域住民が主体となって地域資源を活用して問題解決に取り組む点は、プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)の原則と合致する。対照的に、従来のロジカルフレームワークを用いたアプローチ(ログフレーム・アプローチ)は、対象地域に現存する問題とその原因を特定し、専門家の知識と外部からの支援によって解決する手法である。不足を埋めることで問題解決を試みることから、ギャップ・アプローチとも呼ばれる。

      ポジデビ・アプローチは、セーブ・ザ・チルドレンUSAが1990年に初めてベトナムで「子どもの栄養改善プログラム」を試行して以降、世界各国でプロジェクトや研究に広く活用されている。本稿では、その特徴をログフレーム・アプローチとの比較によって整理し、国際開発プロジェクトにおける両アプローチの統合可能性とその留意点を考察する。

      ポジデビ・アプローチは、「行動変容によって解決が見込まれる課題」に対して効果が期待される。プロジェクト策定時には、まずログフレーム・アプローチによって目標達成のためのロジックモデルを構成する。ポジデビ・アプローチは「アウトカムレベルの問題に取り組み、特定の行動を普及させることでプロジェクト目標を達成するため、アウトカムレベルの問題をプロジェクト目標(アウトカム)、そしてポジデビ行動の普及をアウトプットとして設定する。ポジデビ行動の普及にはガバナンスや既存の組織・システムの影響を受けるため、ポジデビ行動を普及するための組織の構築も併せてアウトプットとして設定するとよい。活動としてはポジデビの実践プロセス(問題の定義、ポジティブな逸脱者の発見、ポジデビ行動の特定と抽出、活動計画の策定と実践、モニタリングと評価)を取り入れ、投入としては、専門家を「地域住民主体による実践プロセスをファシリテートする」役割として配置する。

      従来の問題解決法を取り入れながらポジデビ・アプローチを試行し、成果を上げている援助機関は世界的に増加している。日本の機関による取り組みは少数だが、小規模プロジェクトでも効果を発揮することが報告されており、その経験とノウハウが今後普及することが期待される。

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