国際保健医療
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国際開発の現場におけるポジティブ・デビアンス・アプローチとロジカルフレームワーク・アプローチの統合に向けて
喜多 桂子高橋 謙造渡辺 鋼市郎
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2025 年 40 巻 1 号 p. 29-39

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抄録

  ポジティブ・デビアンス(ポジデビ)・アプローチは、特別な資源を持たずに課題をうまく解決している個人やグループ(ポジティブな逸脱者)を発見し、彼らの方法を普及することで問題解決を図る方法である。地域住民が主体となって地域資源を活用して問題解決に取り組む点は、プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)の原則と合致する。対照的に、従来のロジカルフレームワークを用いたアプローチ(ログフレーム・アプローチ)は、対象地域に現存する問題とその原因を特定し、専門家の知識と外部からの支援によって解決する手法である。不足を埋めることで問題解決を試みることから、ギャップ・アプローチとも呼ばれる。

  ポジデビ・アプローチは、セーブ・ザ・チルドレンUSAが1990年に初めてベトナムで「子どもの栄養改善プログラム」を試行して以降、世界各国でプロジェクトや研究に広く活用されている。本稿では、その特徴をログフレーム・アプローチとの比較によって整理し、国際開発プロジェクトにおける両アプローチの統合可能性とその留意点を考察する。

  ポジデビ・アプローチは、「行動変容によって解決が見込まれる課題」に対して効果が期待される。プロジェクト策定時には、まずログフレーム・アプローチによって目標達成のためのロジックモデルを構成する。ポジデビ・アプローチは「アウトカムレベルの問題に取り組み、特定の行動を普及させることでプロジェクト目標を達成するため、アウトカムレベルの問題をプロジェクト目標(アウトカム)、そしてポジデビ行動の普及をアウトプットとして設定する。ポジデビ行動の普及にはガバナンスや既存の組織・システムの影響を受けるため、ポジデビ行動を普及するための組織の構築も併せてアウトプットとして設定するとよい。活動としてはポジデビの実践プロセス(問題の定義、ポジティブな逸脱者の発見、ポジデビ行動の特定と抽出、活動計画の策定と実践、モニタリングと評価)を取り入れ、投入としては、専門家を「地域住民主体による実践プロセスをファシリテートする」役割として配置する。

  従来の問題解決法を取り入れながらポジデビ・アプローチを試行し、成果を上げている援助機関は世界的に増加している。日本の機関による取り組みは少数だが、小規模プロジェクトでも効果を発揮することが報告されており、その経験とノウハウが今後普及することが期待される。

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