2008 年 10 巻 2 号 p. 109-120
日本語の相互行為は「阿吽の呼吸」や「以心伝心」によるところが多いと言われてきたが,広い意味での暗示的談話のメカニズムに関する実証的研究はこれまで十分行われてきたとは言えない.ここでは,会話分析により,話し手が話す内容を「微妙」なものとしてマークしている相互行為環境に的を絞り,話し手が暗示的発話を文脈の中でどのような具体的手法で構築し,またそれを聞き手がどのように受け止めていくかを文法的および韻律的手法を含めて,考察する.話し手の暗示的な発話に対しては様々な対応が見られるが,場合によっては聞き手が同じく暗示的な応答をしたり,あるいは話し手の暗示的な働きかけを拒絶することもある.このような事例を通して「阿吽の呼吸」が生まれるには参与者相互が,いかに細やかに歩調を合わせているかについて論じる.