社会言語科学
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日・英小説の語りに表れる「声」 : 自由間接話法とその翻訳
伊原 紀子
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2008 年 11 巻 1 号 p. 151-163

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抄録

我々は小説を読む際,語り手や登場人物の様々な「声」を聞く.本稿では,日・英小説の語りの「声」に焦点を当てて感情表出の違いを考察し,その違いが日・英の言語的差異に起因することを論じる.英語の三人称小説の地の文は,語り手による間接話法が規範的であり,登場人物の直接話法が現れることは少ない.しかし自由間接話法(Free Indirect Discourse:FID)によって,読者は語り手と登場人物の「二重の声」を聞くことができる.同じ小説の日本語版では,地の文であっても登場人物の「声」が直接反映されることが多い.これは,日英で対人的機能を担う表現のふるまいに違いがあるためと考えられる.つまり,英語では助動詞や法助動詞などが対人的機能を担うが,それらが付加したからといって直接話法とはならず,FIDとなることが多い.一方日本語では,対人的機能を担う終助詞「よ」「わ」「ね」や「です」「ます」などが形態素として文末に組み込まれやすい.それらが付加されると,登場人物のことばが直接話法として提示されることが多い.

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