抄録
近畿方言では,特殊モーラにアクセント核が生起することがあるが,首都圏方言では,特殊モーラにアクセント核は生起しない.そのため,特殊モーラである撥音の持続時間に関する知覚が異なる可能性がある.このことから,話し手の撥音の持続時間を変えた音声資料によって,聞き手の知覚がどう変わるか,対人コミュニケーションの見地から調査した.その結果,首都圏方言話者,近畿方言話者とも,撥音の持続時間が短いと,聞き手の受け止め方を考えていないという意味で,「ぞんざい」と感じる傾向がみられた.一方,撥音の持続時間が原音声より長くなると,近畿方言話者は「ぞんざい」と感じる人が少ないのに対し,首都圏方言話者は「ぞんざい」と感じる人が増加し,方言地域の言語環境の違いが影響している可能性が示唆された.