日本人が外国人の言語運用を評価する際,評価の観点やプロセスは個人によってかなり異なっていることが予想される.評価の結果だけでなく,そのプロセスも含め,質的に深く掘り下げていく研究が不可欠である.そこで我々は,外国人が書いた日本語手紙文10編を, 3名の日本人(それぞれ評価者A,B,C)に読んでもらい,「順位付け」をしてもらうとともに,その過程で感じたことをPAC分析の手法で聞き出し分析する,という調査を行った.その結果,評価者Aは「書き手の態度」という観点と「言語形式」という観点を分析的に,かつ優先順位をっけて使い分けていること,評価者Bは,「言語形式」という観点を通じて「態度」を判断しようとしていること,評価者Cは「言語形式」という観点をほとんど使わず,観察できる「態度」のさらに背後にある書き手の「人格」を問題にしていたこと,が分かった.個人の持つこのような評価観のあり方を明らかにしていくことは,一人一人の日本人が自分自身の評価観を問い直すための手助けとなるであろう.