社会言語科学
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言語シフトを逆行させるプロセスと言語復興 : アイヌとケルト語派からの考察(<特集>多言語社会日本の言語接触に関する実証研究)
マーハ ジョン C.
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2014 年 17 巻 1 号 p. 20-35

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抄録

存続の危機にある言語を復興させることは,世界的な課題である.この分野で影響力の強いジョシュア・フィッシュマンの理論「Reversing language shift(言語シフトを逆行させるプロセス)」(1991)は,さまざまな問題について「診断」し,同様の状況に置かれている言語の共通点について検討し,解決法を共有しようとする試みである.単独では消滅の危機に瀕した言語であっても,互いを支援しあえることから,(a)現状の把握,(b)共通の問題に取り組むという観点に立った比較研究は有用であると考えられる.本稿では,日本における先住民族の言語であるアイヌ語の近年の動向を,ケルト語派諸言語の動向と比較する.アイヌ語は,母語話者は少ないが話者に関する優れた記録が残っている.危機言語を存続させる方法には,民族の象徴・継承言語として,あるいは観光・ビジネス商品としてといった従来からの在り方に加え,近年ではインターネット上の社会的ネットワークを通じた,音楽(フォーク,ロック,ジャズ,電子),アート,ダンス,映画,ラジオ,言語教室,有能な教師や教材などの広まりといった新しい傾向がみられる.先住民の言語とは,今やクールな存在であり,アイヌに関する諸団体の政治的なアクションを支えるものでもある.フランスや日本では,中央集権的な学校教育制度や地方の自立性の弱さによって,ブルトン語やアイヌ語が消滅の危機に追いやられてきた.これらの国では,ethnolinguistic(民族言語学的)な多様性が未だに歓迎されず,少数言語・危機言語を支える政策も不足したままである.一方,スコットランド,ウェールズ,コーンウォールなど,自治の動きが活発な英国では,スコットランドゲール語,ウェールズ語,コーンウォール語の復興に向けた動きが活気づけられている.

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© 2014 社会言語科学会
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