2018 年 21 巻 1 号 p. 129-145
本研究は,異言語,異文化比較のためのコーパスを用い,英語,中国語,日本語,韓国語,タイ語の課題達成談話における言語使用を通じて観察される相互行為の比較分析である.分析により明らかになった言語行動の特徴より,英語と中国語では,参与者が自律的な言語行動をとり,話し手主導で作業を進めていることがわかった.一方,日本語と韓国語とタイ語では,話し手は常に聞き手からの同意や賛同,確認などの反応を求め,言語的に同調,共鳴し,両者が融合的に関わりながら作業を進めていた.これらの分析結果を通し,それぞれの言語行動と「場と自己と他者の関わり方」についての相関関係を特定した.それにより,英語と中国語が,「個を基体」として自己が規定され,言語使用は自律的であるという既存の語用論が依拠する「個を基体とする言語行動」をとっていたのに対し,日本語,韓国語,タイ語は,「場を基体1)」として自己と他者が規定され,言語使用も場におけるさまざまな要素をもとに決定づけられる「場を基体とする言語行動」をとっていたことが明らかになった.このような結果より,日本語,韓国語,タイ語のような場志向的言語行動を「場を基体とする言語行動」とし,これらを言語行動における二つの異なる志向性として提案する.