社会言語科学
Online ISSN : 2189-7239
Print ISSN : 1344-3909
ISSN-L : 1344-3909
21 巻, 1 号
選択された号の論文の31件中1~31を表示しています
特集「人・文化・社会を理解することばの対照研究」
巻頭言
展望論文
  • 林 誠
    2018 年21 巻1 号 p. 4-18
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿では,会話分析における対照研究のこれまでの動向を概観し,その成果や課題を議論することによって,相互行為のプラクティスの対照研究がもたらす知見の意義を考察する.まず,会話分析の目的が,言語や文化の差異を超えて,人間の相互行為に一般的に存在する諸問題(generic interactional problems)を明らかにし,それを解決する手続き・方法を記述することであるということを押さえた後,会話分析における対照研究の草分け的存在となった1990年代の日英語比較対照研究を紹介する.その後,近年盛んになった大規模な多言語間比較研究プロジェクトを概観し,そこで提唱されている語用論的類型論(pragmatic typology)という新分野,およびそこで用いられている自然コントロール法(natural control method)という方法論を紹介する.

  • 片岡 邦好
    2018 年21 巻1 号 p. 19-34
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿では,言語的な「視点取り」(perspective-taking)の研究において重要な位置を占めてきた「空間参照枠」(spatial frame of reference)の特性を詳細にモデル化し,「空間描写」を従来の空間参照枠表現と空間描写モードに区別することにより,広く「視点化」(perspectivization)の類型に統括することを目的とする.さらに,ジェスチャーを含む近年の談話研究の知見にもとづき,心身(ことばと身体)を通じて表面化する「視点」を分析の射程に収めるための分類を提示し,談話/ジェスチャー研究における視点化の対照分析に向けた,エティックな基盤を提案する.

  • 野間 秀樹
    2018 年21 巻1 号 p. 35-51
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    対照研究は言語学の単なる一分野に留まらない.対照という方法は言語研究の根幹をなす.差異とは対照することによって得られるものだからである.既に多くの優れた事例研究を獲得している対照研究において,現在必要なのは,対照研究の原理論の構築である.〈何を,いかに対照するのか〉という問いを問うには,〈言語はいかに在るか〉即ち〈言語はいかに実現するか〉という存在論的な視座からことばそのもののありようを照らすことが,不可欠の要諦である.ことばとして形に現れたものと,そうでないもの,とりわけ言語未生以前のものとを峻別し,言語の形而上学を排すこと.言語を単なる「コミュニケーションの道具」に矮小化する言語道具観や,言語は何かの目的のために行われるとする目的論的言語観の原理的な危うさを見切ること.言語を単なる記号論的な対象として見るのではなく,言語が実際に行われる言語場に着目し,人間の存在の深いところに係わるものとしての言語を,見据えねばならない.

研究論文
  • 彭 国躍
    2018 年21 巻1 号 p. 52-63
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    中国語と日本語の命題モダリティ表現の使用において,多くの日本人中国語学習者と中国人日本語学習者の間でカルチャーショックが経験され,話し手の含意に対する誤解が生み出されている.本論の目的は,これらの誤解が発生する原因について理論的な解釈を行うことである.まず,日本語と中国語の命題モダリティ表現の運用的特徴を記述し,命題モダリティ有標化における「臨界点相違の仮説」を提唱し,両者の相違点を指摘する.それから,異文化語用論の立場から,Griceの「協調の原理」の適用分析を通して,日中異文化コミュニケーションにおけるさまざまな誤解が生まれるメカニズムを明らかにする.最後に,本研究の結果が日中異文化理解の促進に寄与することになるだろうと結論付ける.

  • 植野 貴志子
    2018 年21 巻1 号 p. 64-79
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,日本語とアメリカ英語の初対面の教師・学生ペアの会話をデータとして,会話マネージントに関わる発話行動を分析し,そこに反映する教師と学生の関係を文化・社会的観点から考察した.同一のテーマを与えられた日英語会話において,教師と学生が(1)会話開始時,どのように第一話題提供者を決めるか,(2)自身による話題提供後,どのように相手を次の話題提供へと仕向けるか,(3)話題が尽きたとき,どのように次の話題を探索するかを分析した.その結果,英語会話では,教師,学生ともに,相手の話題選択の自由を確保しながら話題提供を促す等,対等な働きかけを介して,二者のステイタスの違いを平均化する傾向が認められた.一方,日本語会話では,教師が一方的に話題を提案しながら学生に話題提供を促す等,非対称の発話行動が見られ,そこには疑似親子的な一体感が醸されていることが指摘された.日本人に特徴的な発話行動の仕組みは,理性と感性の二領域のはたらきを含めた「自己の二領域性」のモデル(清水,2003)を導入することにより,より適切に説明されることを論じた.

  • 沖 裕子, 姜 錫祐, 趙 華敏, 西尾 純二
    2018 年21 巻1 号 p. 80-95
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    日韓中の依頼談話を対象に,実例と内省観察によって,発想と表現の巨視的異同を対照的に記述した.依頼行動があって,次に言語選択がある.そのため,社会文化が,意識態度,談話内容,言語表現に影響していることを明らかにした.まず社会文化を観察すると,中国と韓国社会には,積極的に依頼しあうことによって人間関係を構築していく互恵関係構築文化があるのに対して,日本社会にはそれがないことが分かった.中国社会では,依頼し合うことが「関係(グヮンシー)」と呼ばれる社会的きずなを築く手立てとして機能している.「関係」の間柄では依頼を基本的に断らないため,頼む側は,依頼相手が実現しやすいように,何をどこまでなぜ依頼するのか,言葉で明確に述べることが常識ある丁寧な態度だと意識されている.韓国社会の互恵関係はウリ(親密関係)間で成り立ち,中国より軽微な依頼の応酬もみられ,一部様式化している.依頼内容は,相手の現在の状況と自己の実情を言葉で率直に伝える.相手の依頼を断ることはできるが,相手が納得する理由が必要である.日本社会には,相手に頼むことからまず始める互恵関係構築文化は無い.自助と,共同体の共助が基本で,個人的な依頼は相手に迷惑をかける行為だと認識されている.場面意識にもとづいて,状況と心情をそれとなく伝えていくことで,相手の察しを待つ依頼表現が選択される.

  • 大谷 麻美
    2018 年21 巻1 号 p. 96-112
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本語とオーストラリア英語の初対面会話において,会話参加者たちがどのように話題を連鎖,展開させているのかを,串田(1997)の「共-選択」の分類を利用して分析,対照した.その結果,日本語では,英語1)以上にポーズや音韻的特徴による「境界づけられたトピック推移」が多く,比較的細切れの話題展開が行われていた.それに対して英語では,「切れ目ないトピック推移」が多く,話題の長い連鎖が見られた.その相違の要因として,英語では局域的,広域的,接線的などの多様な共-選択によって話題を連鎖させているのに対し,日本語では局域的共-選択は多いものの,他の共-選択は英語と比較すると少なく,また時には共-選択を行わず,話題を連鎖させずに打ち切る傾向すらあることが明らかになった.これらの相違が生じる背景には,両言語の初対面関係で期待されている関与(involvement)の程度に違いがあるためだと考えられる.初対面の人間関係においては,英語では日本語以上に,話題や相手への早い時期でのより大きな関与が期待されているとみられ,それが積極的な共-選択につながることを指摘した.また,このような共-選択の方法の相違が,話題の連鎖・展開以外にも,先行研究で示されている自己開示や話題展開のスタイルの相違の要因としても説明できることを論じた.

  • 定延 利之, ショモディ ユーリア, ヒダシ ユディット, ヴィクトリア エシュバッハ=サボー, アイシュヌール テキメン, ディルシャーニ ...
    2018 年21 巻1 号 p. 113-128
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿は,音声言語が音声言語であるがゆえに有しがちな「非流ちょう性」に対して文法論の観点から光を当てるものである.非流ちょう性については,形態論の複雑度に基づく言語差がこれまでに指摘されている.本稿はそれとは別に,言語の膠着性の関与の可能性を指摘する.我々の膠着性仮説によれば,高い膠着性は形態素内部での延伸型続行方式のつっかえを許容しやすい.日本語の他,韓国語・シンハラ語・タミル語・中国語・トルコ語・ハンガリー語・フランス語の観察を通して,この仮説を提案する.

  • 藤井 洋子
    2018 年21 巻1 号 p. 129-145
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,異言語,異文化比較のためのコーパスを用い,英語,中国語,日本語,韓国語,タイ語の課題達成談話における言語使用を通じて観察される相互行為の比較分析である.分析により明らかになった言語行動の特徴より,英語と中国語では,参与者が自律的な言語行動をとり,話し手主導で作業を進めていることがわかった.一方,日本語と韓国語とタイ語では,話し手は常に聞き手からの同意や賛同,確認などの反応を求め,言語的に同調,共鳴し,両者が融合的に関わりながら作業を進めていた.これらの分析結果を通し,それぞれの言語行動と「場と自己と他者の関わり方」についての相関関係を特定した.それにより,英語と中国語が,「個を基体」として自己が規定され,言語使用は自律的であるという既存の語用論が依拠する「個を基体とする言語行動」をとっていたのに対し,日本語,韓国語,タイ語は,「場を基体1)」として自己と他者が規定され,言語使用も場におけるさまざまな要素をもとに決定づけられる「場を基体とする言語行動」をとっていたことが明らかになった.このような結果より,日本語,韓国語,タイ語のような場志向的言語行動を「場を基体とする言語行動」とし,これらを言語行動における二つの異なる志向性として提案する.

  • 井上 優
    2018 年21 巻1 号 p. 146-159
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    日本語と中国語の不定要素つき真偽疑問文(不定代名詞的な要素を含む真偽疑問文)と疑問詞疑問文の使い分けには,次の二つのずれが観察される.(1)日本語では不定要素つき真偽疑問文が自然に使えるところで,中国語では不定要素つき真偽疑問文が使いにくいことがある.(2)日本語では疑問詞疑問文が使いにくいところで,中国語では疑問詞疑問文が自然に使えることがある.このようなずれは,日本語と中国語とで疑問発話の前提のあり方が異なることに由来する.具体的には,次の二つのことが関係している.①語用論的要因:日本語よりも中国語のほうが,「場の本来的機能」が疑問の前提の設定に関与する度合いが高い.②文法的要因:疑問の前提の設定に際して,中国語は「話し手の認識」を基準にするが,日本語は「現実世界」を基準にする.

  • 遠藤 智子, ヴァタネン アンナ, 横森 大輔
    2018 年21 巻1 号 p. 160-174
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,フィンランド語・日本語・中国語における先行発話に重なって開始される応答,特に同意的応答について,対面会話の録画をデータとして検討する.会話分析の手法を用いた分析により,まず,完結可能点より早い位置で同意を開始することは,話題に関する認識的独立性を主張し,同意的応答が持つ行為連鎖上の従属的な性質を調整するということに動機づけられていることを示す.重なって開始される同意的応答の構造的特徴として,(1)同意のパーティクル+理解の提示および(2)認識性に関する修正を含む繰り返しという2つのパターンが3言語に共通して見られた.また,重ねられる側の発話には,条件節や因果節による複文構造やトピック–コメント構造が3言語に共通して見られた一方で,フィンランド語と中国語ではSVX語順が,日本語では引用構文が観察された.これらの構造は,その前半または初めの部分が次にどのような内容が産出されるかを強く投射するため,聞き手が完結可能点よりも早く応答を開始することを可能にする.本研究は,発話の開始位置と発話の言語構造を調整することによって会話参与者間の知識状態に関する相対的な位置取りを交渉するということが,人類の文化に(あるいは少なくともここで取り上げた3言語に)共通してみられる普遍的なプラクティスであることを示唆するものである.

  • 西嶋 義憲
    2018 年21 巻1 号 p. 175-190
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    異なる言語間の対応する言語表現を比較する場合,どのようにすればより客観的で妥当な比較が可能になるのかを考察する.従来,言語間の比較の際,とくに認知言語学分野では翻訳を利用する研究が多く見られた.しかしながら,翻訳を用いた比較は比較可能性という観点から問題がないわけではない.その問題点を確認し,それとは異なる新たな比較方法を提案し,それによる成果を紹介する.

  • 櫻田 怜佳
    2018 年21 巻1 号 p. 191-206
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,アメリカ英語母語話者と日本語母語話者のパブリック・スピーチに現れる構成と言語表現を分析することを通して,各言語話者のスピーチに見られる傾向を明らかにし,その背景にあると考えられる語り手と聴衆の関係を考察することを目的とする.書き言葉においては,これまで多くの対照研究がなされており,言語文化によって文章の構成に異なりがあることが明らかにされている.一方,話し言葉では語り手が自由にアイデアを語るパブリック・スピーチを扱った対照研究は未だ少ない.本稿は,TED Talksをデータとして用い,1) スピーチの構成と2) 使用されている言語表現の2つの側面から,各言語話者が行うスピーチの傾向を比較分析する.さらに,分析の結果から,パブリック・スピーチにおいて語り手と聴衆はどのような関係であるかについて論じた.結果として,英語母語話者は,聴衆に情報の確実性を強調する傾向が見られ,語り手はあたかも「リーダー」のように聴衆を先導する関係が見られた.一方,日本語母語話者には,語り手と聴衆の一体化や知識の共有化という傾向が見られ,語り手は聴衆の「パートナー」のように同行するという関係が見られた.

  • ツォイ エカテリーナ
    2018 年21 巻1 号 p. 207-224
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本語とロシア語の会話データの比較対照から,三者間の共同課題解決における参加者の親疎関係の違いによる相互行為の差異を分析したものである.研究方法としては,まず「親」「疎」いずれもの対人関係が観察できるよう,友人同士の話者2名および初対面話者1名からなる会話を収集した.次に,解決策の提案に対して即座に同意が示されなかった「提案交渉」の談話を取り上げ,参加者の親疎関係によって交渉パターンを,友人同士間の「提案交渉」に初対面話者が参入するものおよび,友人話者の一人と初対面話者が「提案交渉」しているところにもう一人の友人が参入するものの2種類に分けた.そして,質的分析によりどのように三人目の話者が交渉に参与し,話し合いを左右していくかの2点について考察を行った.分析の結果,日露語ともに,後から交渉に参入する者が交渉中のどちらか一人に支持を示すことにより話し合いを合意に導くことが明らかとなった.また,日本語の会話では友人話者が「提案交渉」に参入する際に友人側を支持していた.一方,ロシア語の会話では,初対面話者が「交渉中のどちらも支持しない」という参入方法を取ることが多く,中立な立場で話し合いを交渉状態から次の段階へと進めていた.

研究論文
  • ボイクマン 総子, 森 一将
    2018 年21 巻1 号 p. 225-238
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,親しい間柄の会話者間が力関係と状況に対する負担の度合いによって,どのようなスピーチ・レベルを選択するのかを定量的に検証することを目的とする.本研究では,日本語母語話者20名に対し,クローズド・ロール・プレイを用いて依頼,勧誘,謝罪の発話行為における発話データを抽出した.依頼と勧誘は主依頼・主勧誘の発話(Head-act)とそれ以外の発話(Others),謝罪は謝罪表明の発話(IFID)とそれ以外の発話(Others)にわけ,各発話のスピーチ・レベルを大きく3つとそのサブ・レベルの6段階で分析した.その結果,次の3点が明らかになった.1)談話の基調となるスピーチ・レベルは発話行為の種類に関わらず対話者間の力関係によって決定される,2)負担の度合いによりサブ・スピーチ・レベルの表出に差が生じる,3)主依頼・主勧誘の発話はそれ以外の発話よりスピーチ・レベルが高く,Othersではサブ・レベルの比率が主依頼・主勧誘の発話(Head-act)と謝罪表明の発話(IFID)より高い.以上の結果から,これまで注目されてこなかったサブ・スピーチ・レベルを含めることで日本語におけるスピーチ・レベルに関わるポライトネス研究がより精緻化できると言える.

  • ウォンサミン スリーラット
    2018 年21 巻1 号 p. 239-254
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    冗談を言う,つまり遊びフレームへのリフレーミングは精神的に負担がかかる場面の緊張を緩和させる重要な談話ストラテジーとして普遍的に用いられるとされる.本研究では,遊びフレームへのリフレーミングに着目して,日本語会話におけるタイ語母語話者の不満表明の特徴を分析した.その結果,不満表明の場面でタイ語母語話者による遊びフレームへのリフレーミングが見られた.不満を言う側としてのタイ語母語話者は状況解決を優先するのではなく,相手と所々冗談を交えながら会話を進めている.次に,遊びフレームにおける冗談の内容別に相手がリフレーミングを認識可能とする手がかりを分類した結果,相手のフェイスを侵害する冗談「フェイス侵害あり」には,「笑い」,「繰り返し」,「プロソディーの変化」,「スタイル・シフト」,「直接引用発話」の手がかりが用いられているが,単に笑いを誘う冗談「フェイス侵害なし」には「笑い」,「繰り返し」,「プロソディーの変化」の手がかりの使用のみが見られた.これらの手がかりを用いることは,今ここで行われている活動のおかしさをより際立たせる作用があり,遊びフレームへのリフレーミングの認識が促進されると考えられる.

  • 髙橋 圭子, 東泉 裕子
    2018 年21 巻1 号 p. 255-270
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    現代日本語の「結果」という語には,名詞,副詞句・副詞節の一部,接続助詞的用法,副詞・接続詞的用法にわたる多様な用法がある.本稿においては,近代語および現代語のコーパスを用いて「結果」の諸用法を通時的に観察し,用法拡張の過程について考察した.コーパスの用例調査から得られた知見は次の通りである.(1) 19世紀後半から20世紀初めの近代語コーパスにおいては,「結果」が典型的な名詞用法から副詞句・副詞節の一部,接続助詞的用法に拡張していくさまが観察された.「結果」の前後には多様な形式が接続していた.(2) 20世紀末から21世紀初めの現代語コーパスにおいては,「その結果」「結果的に」「結果として」といった形式が多数を占め,定型化の進行がうかがえる.また,副詞・接続詞的な独立用法も増えている.「結果」に前接・後接する表現の一方もしくは両方が用いられない形式・用法が増加していることがわかった.(3)「結果」の用法拡張および形式の変化は,実質語としての意味の希薄化という意味的変容を伴う場合がある.また,文頭へという位置の変化も注目すべき特徴である.今後の課題として,「結果」のみならず他のさまざまな語についても名詞からの用法拡張について用例調査を行い,異同を考察することが挙げられる.

  • 羅 希
    2018 年21 巻1 号 p. 271-285
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿は,中国語天津方言の会話における相づちを頻度,形式,出現位置,場面などの視点から記述するものである.従来の研究では,中国語母語話者の会話において,相づちは頻度が低く,文末,あるいは1つのまとまった意味のあるところで打たれるなどの点が指摘されている.本稿では,中国語の天津方言の会話における相づちを分析し,その特徴を記述した.分析の結果,天津方言話者の会話においては相づちの頻度が高く,形式のバリエーションが豊富であることが分かった.さらに,天津方言話者のコミュニケーションの様式は,天津地域の文化に関わっている可能性があることを指摘した.本稿の分析を通して,地域による会話のスタイルのバリエーションの多様性を示す.

  • 平本 毅, 山内 裕
    2018 年21 巻1 号 p. 286-302
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿ではサービス場面における時間がサービス提供者と消費者の相互行為により意味付けされる過程を解明する.カフェで落ち着いた時間を過ごすことや,クラブで楽しい時間を過ごすことのように,サービス場面における時間への意味付けは,そのサービスの価値の一部になっている.近年のサービス中心論理の議論を援用しながら,相互行為の中でいかにして時間が意味付けされるかを調べることが,サービスの価値を行為者が共創する過程の経験的分析になることを指摘する.この経験的研究の一例として,本稿では江戸前鮨屋の注文場面の会話分析を行う.具体的には,職人が客に注文を伺った後に,つけ台(カウンター)を拭いたり包丁を洗ったりといった手元の作業に従事するというプラクティスに着目し,このプラクティスの詳細を解明する.このプラクティスは,その場に適切な注文品をじっくり選ぶ時間を客に与える.分析結果をふまえて,客に適切な注文品を選ぶ時間を与えることにより,相互行為の中でサービスの価値が共創されていることが論じられる.

  • 岩下 智彦, 三國 喜保子, 岩間 徳兼
    2018 年21 巻1 号 p. 303-316
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    日本語の映像コンテンツは,多くの日本語学習者によって教室外学習のリソースとして活用されていると言われているが,これまでそこで学ばれる内容や使用方法の詳細は明らかにされていない.そこで,本稿では日本語の映像コンテンツを利用した教室外言語学習の実態を明らかにするため,教室外における日本語映像コンテンツ視聴時の言語学習ストラテジーに関する質問紙調査を行った.分析は,タイの大学で日本語を専攻する大学生159名の回答に対して,(1)映像コンテンツ視聴時に現れるストラテジーの特徴の抽出,(2)ストラテジーの使用傾向の解明の2点を目的として実施した.因子分析の結果,【言葉・表現理解】,【社会文化・内容理解】,【未知語への反応】,【音声への焦点化】の4因子が抽出された.これらは既存の言語学習ストラテジーと重複する特徴を有しながらも,学習環境やリソースの特性によると思われる独自の特徴を持つことが示唆された.また,ストラテジーの使用に基づくクラスター分析の結果からは,〈高学習意識群〉,〈低学習意識群〉,〈社会文化・内容理解重視群〉,〈未知語への反応群〉の4群が示され,学習意識の高低,および使用するストラテジーの組み合わせに特徴づけられた使用傾向も示された.これらの結果は,教室外における日本語映像コンテンツを用いた日本語学習の一端を示したと言える.

  • 牧野 由紀子
    2018 年21 巻1 号 p. 317-334
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    行為指示を表す表現は数多くあるが,中でも動詞の活用形としての「命令形」は,最も強力かつ直接的にそれが「命令」であることを表す形式である.そのためその運用にあたっては社会的な制限が存在し,またその制限にはその社会の社会関係や社会構造が影響していると考えられる.本稿では,伝統的な敬語体系が1970年代まで残っていたとされる五箇山方言に注目し,敬語命令形を含む方言命令形が,誰にどのような機能で使用可能かという命令形の使用範囲の分析を行った.その結果, (i)敬語命令形の使用に代表されるように,上下関係を基盤とした伝統的な命令形の運用体系が近年まで存続していたこと(ii)それが1980年代に急速に衰退し,対人配慮の体系へ変化したこと,およびその変化には社会構造の変化が密接に関係していることを指摘する.さらには,五箇山方言での命令形の運用体系の変化は,日本語における行為指示表現の歴史的な変化の道筋を具体的に示す一例になることを指摘する.

  • 岡 葉子
    2018 年21 巻1 号 p. 335-347
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本調査の目的は,学習動機の継続性に注目し,日本語学校生の学習動機因子および自己形成因子が在籍期間によって異なる値を示すのか,検証することである.都内の日本語学校生406名を対象に,「期待価値理論(Eccles & Wigfield, 1995など)」を援用し,質問紙調査を行った.学習動機に関しては,在籍期間(4ヶ月以内・6~10ヶ月・1年以上)と性(男性・女性)の二要因分散分析を行ったところ,複数の学習動機の因子において,在籍期間の異なる学習者群間に有意差が見られた.特に,在籍期間が1年以上の学習者群において,「内発的価値」と「能力期待」の値が有意に低かった.また,在籍期間が6ヶ月から10ヶ月の男性学習者群の「能力期待」の値が,同時期の女性学習者群よりも有意に高かった.自己形成に関しては,男子学生の方が「自己斉一性・連続性」と「対他的同一性」が有意に低く,男子学生のほうが留学に伴う環境の変化から影響を受けやすいことが推測できた.また,在籍期間が4ヶ月以内の学習者群は,「心理社会的同一性」が他の学習者群よりも有意に値が高かったことから,在籍期間が長くなると,社会の中における自己を不安定に感じ,学習動機が低くなるため,教育現場での配慮が必要であることが分かった.

  • 高木 智世
    2018 年21 巻1 号 p. 348-363
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    本稿では,高機能自閉症と診断された男児と支援者の相互行為場面を会話分析の方法を用いて緻密に分析し,両者のコミュニケーション上の「すれ違い」やトラブルが生じる過程を記述する.この作業を通して,一見不可解で,支援者に混乱をもたらしている男児のふるまいが,相互行為状況に対する敏感さや相互行為上の問題への対処を志向するものであり,定型発達者と同様,一定の記述可能性を含むことを検証する.とりわけ,自閉スペクトラムに特徴的な症状とされる「独語的ふるまい」にも見える,室内の鏡に向けての語りかけが,すでに生じている問題を解決するための仮の参加枠組みを構築するふるまいとして捉えられることを示す.緻密な分析を通して自閉スペクトラム症児のふるまいの「不可解さ」に対して相互行為現象としての記述可能性が与えられたことを踏まえ,そうした事例研究の積み重ねが,自閉スペクトラム症者/児のふるまいが定型発達者のそれとは必ずしも一致しない「合理性」に支えられている可能性について理解を深めることになることを主張する.

資料
  • 山本 裕子
    2018 年21 巻1 号 p. 364-380
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    近年「材料を切っていきます」や「煮込んであげましょう」のように,手順や方法を説明するような接客場面で補助動詞が多用される.本稿はこの現象が待遇意識の変化の現れの一つとして捉えられることを,大学生への質問紙調査を通して示したものである.調査は接客場面をいくつか示し,1)提示された選択肢の中でどのような表現を好むか,2)その表現にどのような印象を抱いているか,の2段階で実施した.1)の結果,大学生は接客場面において,非敬語よりは敬語を,また短い形式よりも長い形式を好む傾向があることが示された.2)からは,敬語にはもっぱら「丁寧さ」のみを感じているが,補助動詞には「丁寧さ」に加えて「親しい」「楽しい」「優しい」等の近接化に関わる印象を抱いていることが示された.これらの近接化に関わる印象は,各補助動詞の本来の意味からもたらされるものである.同時に補助動詞がしばしば縮約形で用いられることも影響している可能性がある.また調査2)の結果を「距離」の観点から整理すると,補助動詞は水平方向に適度な距離感をもたらすものであると言える.以上のことから,補助動詞の多用は,ポジティブ・ポライトネス・ストラテジーと同じく「共感・連帯」によって配慮を表す志向性(〈寄り添い志向〉)の一つの表れであり,待遇意識の変化の方向性と合致していると結論付けられることを述べた.

書評
報告
feedback
Top