2018 年 21 巻 1 号 p. 146-159
日本語と中国語の不定要素つき真偽疑問文(不定代名詞的な要素を含む真偽疑問文)と疑問詞疑問文の使い分けには,次の二つのずれが観察される.(1)日本語では不定要素つき真偽疑問文が自然に使えるところで,中国語では不定要素つき真偽疑問文が使いにくいことがある.(2)日本語では疑問詞疑問文が使いにくいところで,中国語では疑問詞疑問文が自然に使えることがある.このようなずれは,日本語と中国語とで疑問発話の前提のあり方が異なることに由来する.具体的には,次の二つのことが関係している.①語用論的要因:日本語よりも中国語のほうが,「場の本来的機能」が疑問の前提の設定に関与する度合いが高い.②文法的要因:疑問の前提の設定に際して,中国語は「話し手の認識」を基準にするが,日本語は「現実世界」を基準にする.