社会言語科学
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研究論文
相互行為現象としての「コミュニケーション障害」―一自閉スペクトラム症児の相互行為上の困難をめぐって―
高木 智世
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2018 年 21 巻 1 号 p. 348-363

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抄録

本稿では,高機能自閉症と診断された男児と支援者の相互行為場面を会話分析の方法を用いて緻密に分析し,両者のコミュニケーション上の「すれ違い」やトラブルが生じる過程を記述する.この作業を通して,一見不可解で,支援者に混乱をもたらしている男児のふるまいが,相互行為状況に対する敏感さや相互行為上の問題への対処を志向するものであり,定型発達者と同様,一定の記述可能性を含むことを検証する.とりわけ,自閉スペクトラムに特徴的な症状とされる「独語的ふるまい」にも見える,室内の鏡に向けての語りかけが,すでに生じている問題を解決するための仮の参加枠組みを構築するふるまいとして捉えられることを示す.緻密な分析を通して自閉スペクトラム症児のふるまいの「不可解さ」に対して相互行為現象としての記述可能性が与えられたことを踏まえ,そうした事例研究の積み重ねが,自閉スペクトラム症者/児のふるまいが定型発達者のそれとは必ずしも一致しない「合理性」に支えられている可能性について理解を深めることになることを主張する.

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© 2018 社会言語科学会
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