社会言語科学
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研究論文
身体的技術の指導–学習過程における相互行為―年少者向け空手教室での「相手を意識した」経験の共有―
名塩 征史
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2020 年 23 巻 1 号 p. 100-115

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抄録

本稿では,年少者向け空手教室における身体的技術の指導–学習を目的とした相互行為に焦点を当てた.空手は本来,対戦相手と対峙した環境で行われる相互行為であるが,当該教室では相手がいない練習形式が大半を占める.したがって,相手がいない形式での練習中に,どのように練習生に相手を意識させ,その試技に実戦さながらの臨場感を付与するかが,主な指導者である師範にとっての指導上の課題となる.本稿ではまず,熟練した実践者の技能にかかる観察可能な身体的/外的要素だけでなく,それを支える認知的/内的要素にも触れることができる経験を,身体的技術の指導–学習が目指す重要な達成として位置付けた.その上で,当該教室での指導–学習が,師範の経験を反映し,練習生がその経験を多様に共有することを促す環境にあることを確認した.さらに,稽古中に師範が特に強調する「相手を意識した実践」を練習生に経験させるためのマルチモーダルな指導を微視的に分析した.その結果,師範は実際に練習生の身体を打ったり,逆に自己の身体を打たせたりしながら,練習生に対戦相手を想像させ,多様な認知的/内的要素を練習生の内に喚起し,熟練した師範の認知を練習生にも経験させようとする試みが確認された.本稿では,こうした経験へと練習生を導く試みが,相互行為の実践によってのみ直接獲得することができる間身体的な要素の指導–学習に有効な手続きであることを確認する.

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