社会言語科学
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研究論文
他称詞としての指示詞―親族の事例より―
小森 由里
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2020 年 23 巻 1 号 p. 258-273

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抄録

親族間で他の親族に言及する場合,他称詞として親族語や名前などに加え,「この子」「あの人」などコ・ソ・アを用いた指示詞他称詞が用いられる.本稿の目的は,指示詞他称詞の運用上の利点と制約を探り,親族語や名前などの他称詞と指示詞他称詞との違いを明らかにすることである.実在する親族を対象に参与観察によって収集した146の指示詞他称詞のデータを分析した結果,指示詞他称詞には3つの利点があることが判明した.話し手と聞き手の間で呼び名の定まっていない親族に言及する場合,話し手が話題の人物を特定する必要がないと判断した場合,話題の人物について限られた親族間で内密に話をしたい場合には,指示詞他称詞が活用される.一方で,指示詞他称詞の運用には待遇上の制約が認められる.話題の人物が会話の場面に同席する場合,指示詞で指し示すことができる対象は話し手より年下・世代下の人物で血縁者に限られる点である.さらに,親族語や名前と指示詞他称詞との違いとして,親族語や名前は特定の人物を指し示すために用いられるのに対し,指示詞他称詞の指示対象は定まっておらず,会話の展開や場面に応じて指示対象が変わり,柔軟に使用されることが明らかになった.親族語や名前は,話し手・聞き手・話題の人物との世代差や血縁関係に基づき用いられるが,指示詞他称詞の運用には,話題の人物が会話の場面に同席するか否かが大きな影響を及ぼしていることも判明した.

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