本稿では,日本語と韓国語の授受動詞による依頼表現の使用動態に関する調査に基づき,両言語の配慮を必要とする言語形式の多様化の方向性について考察した.本調査では,上下関係,親疎関係,依頼内容の負担の大小という基準を分析に加え,若年層と中高年層にアンケート調査を行った.その結果,比較的新しく使用され始めた表現である日本語の許可求め表現と韓国語の可能肯定疑問の表現は,いずれも若年層が多用し,両世代とも依頼内容の負担の大きい場面で選択率が上がっていた.また,若年層特有に見られた結果としては,初対面の同世代や親しい目上という待遇表現の選択基準が揺れやすい相手へ選択する傾向にあったことから,中高年層よりも使用する範囲が拡がっているということが明らかになった.両言語の授受動詞による依頼表現の多様化の方向性の相違とその要因に関して述べると,モラウ/イタダクの補助動詞用法の有無に加え,それに後接する構文の違いと丁寧さの捉え方に違いがある.日本語の場合,「聞き手の私的領域」を言及しない表現を丁寧な表現だと捉えることがあるため婉曲的な表現が拡張するが,韓国語にはその制限が無いため「聞き手の私的領域」を直接言及する表現が多様になる.よって,日韓の依頼表現のバリエーションの多様化の方向性にも差異が現れると言える.