本研究では,祭りの支度をともに行うことで後継者世代が先達の世代から知識や技能だけでなく,間主観的価値観や風習・慣習・社会的規範など,成員の心がけを学んでいくやり方を明らかにする.分析資料として,長野県の野沢温泉村で行われる道祖神祭りの準備作業場面を収録したビデオデータを用い,相互行為分析の手法を援用する.分析1では,「化粧縛り」という縄結びの技能の本質が美しい形(なり)であるという心がけが学ばれるさまを例示する.分析2では,材木を保管する作業への共同参与によって,率先して作業に手を出したり,木の切り口を揃えるという形へこだわったりする心がけが,数時間のうちに学ばれるさまを例示する.これらの分析を通じて,「心」と「体」と「知」は三身一体として学ばれることを示す.最後に,「心」が学ばれれば,新たな活動においても共同体「心体知」の軌道上の振る舞いが可能になるという学習モデルを提示する.本研究は,たんなる文化の伝承というだけでなく,共同体を養成・結束させる民間装置の解明を行うものである.