筆者らは,同じ地域に住む日本語母語話者(NS)と非母語話者(NNS)がまちづくりについて対等な話し合いを行うことを目指し実践研究を行っている.本稿が分析対象とする話し合いには地域のNSとNNSが参加しており,その中には日本語が初級レベルのNNSも含まれる.そのため,NNSを含むグループに通訳をつけると同時に,通訳を介さない直接的なやりとりを促すための伝達補助ツールとして,参加者全員に多言語併記の感情カードを配布した.話し合いでは,なんらかの理由で話し合いの周辺に置かれた傍参与者が,感情カードというオブジェクトを用いて,他の参加者が形成する関与領域の中に身体的に入っていったり,感情カードに記載された言語情報を手がかりとして他者の発話に理解を示したり反論したりする様子がみられた.特に,異なる言語の話者がこのような行動をとった場合,他の参加者は,当該話者に配慮を示して言語行動を調整しており,話し合いの場に「新たな言語状況」が形成されていた.このように感情カードというオブジェクトの使用によって,傍参与者,特に日本語初級のNNS等話し合いで周辺になりがちな者が,主体的に話し合いに参加することが可能になっていた.