本研究は,ポライトネス研究においては「社会的規範」と「個人のストラテジー」の2側面に注目する必要があるとの問題意識に基づき,会話参加者がこの2側面をいかに調整しつつポライトネスを表示しているかを解明することを目的とする.ポライトネス表示の一形態として待遇レベル管理(待遇レベルの操作,調整)に注目し,特に基本的待遇レベルの設定を中心に日本語母語話者大学生間37ペアの初対面会話データを分析した.その結果,社会的に同等の相手との会話においては参加者双方が同一の基本的待遇レベルを選択した上に相互に各待遇レベルの比率も類似したパターンを示すことが強力な「社会的規範」として作用していることが明らかになった.一方,「個人のストラテジー」としては,基本的待遇レベル設定および待遇レベル・シフト等によって接近や改まり等が表示されていることが観察された.これら2側面は明確に分類するのが困難な性質のものではあるが,本研究は分析的なポライトネス研究の可能性を示唆するものである.