抄録
本稿では,ポライトネスに応じた言語使用に関わる言語形式の認知と話し手と相手の人間関係の認知という視点から,留学生と日本語母語話者の「丁寧体」と「普通体」に焦点を当て,発話スタイルの相違について考察を行った.その結果,中国人・台湾人被調査者は,「親疎関係」や,発話行為の「内容の軽重」が発話スタイルの選択を行う際の重要な判断基準になり,日本人被調査者は,同じグループ内に属するか否かを表す「ウチ・ソト」が判断基準になり発話スタイルの選択を行うということが明らかになった.日本語における「普通体」の使用は相手との心的距離を縮めるという機能を持っているため,「ウチ」の関係にある相手に対する「普通体」の使用が必ずしも相手への配慮にかけた粗野な表現となるわけではない.「ウチ」の関係にある相手に対しては「普通体」を使用してもポライトネスに配慮した発話が可能であるが,留学生がそれを認識するのは難しいと思われる.