抄録
近年、大陸衝突帯の深部を構成する超高圧変成岩やかんらん岩から「多相固体包有物」が発見され、それらは超臨界流体の化石だと解釈されている (Ferrando et al., 2005)。この超臨界流体こそ、沈み込みスラブからウェッジマントルへの物質移動を担っていると考えられている(Massonne, 1992)。本研究では、チェコ・ボヘミア山塊プレソビッツェかんらん岩から新たに見出した多相包有物の観察を通して、大陸衝突帯下の深部流体の性質に制約を与えたい。
チェコ・ボヘミア山塊にはかつての大陸衝突帯の深部を構成していた岩石が広く露出している。そこでは、大小さまざまのかんらん岩が地殻物質起源の高圧型クフェール・グラニュライト中に産する。我々は既にプレソビッツェかんらん岩の温度圧力経路を以下のように制約した:プレソビッツェかんらん岩は初期(Stage I)に高温(> 1020 ºC)のスピネル(±ザクロ石)かんらん岩であった。その後、かんらん岩は増圧して高圧のスピネルザクロ石かんらん岩(Stage II, 850-1030 ºC, 23-35 kbar)に変化し、後の減圧で多くのザクロ石はケリファイト化(Stage III, 730-770 ºC, 5-15 kbar)した (Naemura, 2008)。
プレソビッツェかんらん岩の主要元素はでMg, Crに富んでおり、このような性質は玄武岩質成分に枯渇したハルツバージャイト質のかんらん岩と酷似している。それにも関わらず、プレソビッツェかんらん岩には、金雲母、アパタイト、モナズ石、U-Th oxide、ハットナイト、ドロマイト、ジルコンなどが含まれている。これらの鉱物はマトリクスに単独で産することも多いが、高圧鉱物の包有物としても産する。また、クロムスピネル中には、上記の相が多相固体包有物として産する。多相固体包有物は、ホストスピネルに対して負の結晶面を示すことから、超臨界流体として取り込まれたと考えられる。構成鉱物がK, Ba, Sr, LREE, U, Thなどの可溶性元素に富んでいることも、多相固体包有物がもともと超臨界流体であったことを支持する。このような超臨界流体は、周囲のグラニュライトに代表される沈み込む地殻物質中の含水鉱物の脱水分解反応でもたらされた可能性が高い。講演では、副成分鉱物を用いたU-Th- total Pb年代測定(Naemura et al., 2008)や、超臨界流体の起源・進入時期についても論じる予定である。