抄録
本研究では,神居古潭峡谷地域西部と江丹別峠付近を対象にテクトニクスの解析を行った.神居古潭峡谷の苦鉄質片岩は緑色片岩相の鉱物組み合わせを示し,シュードセクションよりP = 3.4-4.7 kbar, T = 275-300℃と推定された.さらに石英脈中の流体包有物のアイソコアより,P = 2.5 kbar,T = 300℃の条件を通過したと推定される.また,藍閃石のアクチノ閃石による置換と大量の鉱物脈の存在より,緑色片岩相の変成作用は後退変成作用であり,流体からの熱が変成作用の熱源であったと解釈できる.一方,江丹別峠付近の試料はNa角閃石を多量に含み,粗粒であり組成累帯構造も認められる.角閃石やエピドートの組成累帯構造の分析を行った結果,少なくとも同地域には温度―圧力履歴が温度・圧力上昇,または温度・圧力低下を示す2種類の試料が存在することが明らかとなった.