抄録
方解石及び菱鉄鉱が3価のヒ素である亜ヒ酸を溶液中から取り除く除去機構について調べた。方解石に比べて100倍のヒ素が分配する菱鉄鉱には、3価の亜ヒ酸が菱鉄鉱表面に外圏錯体として吸着する。一方で、方解石に分配したヒ素は5価のヒ酸に酸化され、かつ方解石の結晶内部へと取り込まれる。ヒ素汚染地下水中におけるヒ素の主要な化学種は3価の亜ヒ酸であるため、そこでより強くヒ素の移行を制限できるのは菱鉄鉱である。しかし、外圏錯体の吸着反応による固定化であるため、地下水への脱着も容易に起こると考えられる。一方で方解石は、ヒ素を結晶内部に取り込むことができるため、方解石が溶解するまでヒ素を留めておく事ができる。さらに、酸化的環境で溶解する菱鉄鉱とは異なり、方解石は酸化還元環境の変動を受けにくいことから、一度方解石に固定されたヒ素は、その後の環境汚染を引き起こすリスクがより低いと考えられる。