酸化還元状態(Eh: 水素電極を基準とした場合の酸化還元電位)は、元素の価数、ひいてはその挙動を大きく支配する物理化学的な環境パラメータであるが、熱水環境のような極限環境や過去の海洋環境でのEhを絶対的に推定する方法に確立されたものがある訳ではない。本研究では、水圏環境でのEhを推定する手法として、バライト中に取り込まれたセレンを用いたEh計を開発した。バライトへのセレンの価数別の共沈実験の結果、バライト中に取り込まれたSeの価数比は溶液中のSeの価数比を反映することが明らかになった。このことは、バライト中に取り込まれたSeの価数比を用いて、沈澱時の溶液中の酸化還元状態の情報が得られることを示している。これら室内実験における傾向は天然においても確認されており、バライト中に取り込まれたSeの価数比を用いることで過去の酸化還元状態の復元が可能であることが明らかになった。