抄録
古第三紀付加体の嶺岡帯中のかんらん岩は、中程度に枯渇したハルツバージャイトが卓越し(Arai, 1991)、様々なサイズの斑れい岩質岩脈や細脈(1cm~数10cm)によって貫かれる。千葉県鴨川市八岡海岸では、厚さ~10cmの斜方輝岩の岩脈を含むかんらん岩(著しく蛇紋岩化したハルツバージャイト)の転石(径>1m)が複数確認できる。斜方輝岩中の斜方輝石と斑れい岩の斜方輝石生成物の化学組成は、通常のハルツバージャイトの斜方輝石と比較して、Mg#が低く、Al2O3、Cr2O3、CaO量に乏しい。単斜輝石及び斜長石の希土類元素組成は、斜方輝岩中のものが斑れい岩中のものより軽希土類元素にエンリッチしている。このことは、嶺岡帯の斑れい岩と閃緑岩・トーナル岩の全岩微量元素の関係に類似する。斑れい岩と斜方輝岩の岩脈を形成したメルトは、それぞれ始新世に形成されたIBM弧の玄武岩質マグマと安山岩~珪長質マグマであったと考えられる。嶺岡帯のかんらん岩類は、MORBに類似した組成のメルトを抽出した後の溶け残りであり、その後のIBM弧の玄武岩質~珪長質火成活動によって岩脈類が形成された。