景観生態学
Online ISSN : 1884-6718
Print ISSN : 1880-0092
ISSN-L : 1880-0092
特集「人工林景観における自然林化計画論」
土地の生産性と山地災害リスクの評価に基づく森林の広域ゾーニング手法
鎌田 磨人三幣 亮岡 和樹
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 18 巻 2 号 p. 109-122

詳細
抄録

徳島県全域の人工林を対象とし,土地の生産性と山地災害リスクに基づく森林ゾーニングを広域的に行っていくための手法を提示した.1)まず,Mitscherlich式を用いて地位階級を決定した.そして,地形・気象因子から地位階級を推定する順序ロジットモデルを構築し,それを用いて土地の生産性評価地図を作成した.生産性評価地図と作業の効率性に係る評価地図とオーバーレイすることで人工林としての持続性評価地図を作成した.2)斜面崩壊が生じた地点記録と地形,降水量,植生から,Maximum Entropy Model(Maxent)を用いて斜面崩壊確率を推定し,斜面内における宅地,道路・鉄道,農耕地の有無とあわせて山地災害リスク評価図を作成した.徳島県によって示された自然林を拡大していくための方針図とオーバーレイすることで,自然林への誘導優先度に係る評価地図を作成した.Maxentの結果から,自然林面積を多くすることで斜面崩壊確率を下げられることが判明したので,人工林から自然林に転換することで生態系修復と山地災害リスクの低減を同時に達成することができる.3)最後に,人工林としての持続性評価地図と自然林への誘導優先度評価地図をオーバーレイして,a)経済林として人工林を維持する領域,b)自然林に誘導していくべき領域,c)経済林として人工林を維持するか自然林に転換するかでコンフリクトが生じる可能性がある領域,d)新たな投資を行わず現状維持とすべき領域に区分して提示した.ゾーニングのための閾値設定の際には意思決定が必要であるが,本手法では,個々の閾値が決められさえすれば修正は容易で,合意形成の過程で順応的にゾーニング案を作成することができる.また,ゾーニング過程での空間モデルに用いた情報は,国や自治体によって蓄積・公開されているものであり,どの自治体でも適用可能である.

著者関連情報
© 2013 日本景観生態学会
前の記事 次の記事
feedback
Top