景観生態学
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特集「生物多様性情報を地図化する」
相補性解析による効率的な保全に寄与する地域の地図化
角谷 拓赤坂 宗光竹中 明夫
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2014 年 19 巻 2 号 p. 111-119

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抄録

新たに保全地域を設置する場合には,どこを保全候補地域として選定するのが生物多様性の保全の観点からより効率的かという問いに答える必要がある.このような効率性を考えた保全候補地域の優先付けは,それにかかわる概念の整理や手法の開発,さらには実践への適用が近年急速に進展している分野である.特に「相補性」は,保全優先づけを行う上でもっとも重要な概念の一つであり,それにもとづいた相補性解析は保全候補地域の優先付けを行うための手法として中心的な役割を果たすようになっている.相補性解析は,保全地域どうしが相補的に機能するように優先保全候補地域を決める方法であり,多数の分類群や計画ユニットを扱うことのできるツールも実装されている.Marxanはその代表的なものである.Marxanは個々の保全対象(種・分類群や生態系タイプなど)ごとに設定された保全目標を達成するために,保全対象の空間分布データにもとづいて,もっとも効率のよい優先保全候補地域を特定する.「効率のよさ」には,優先保全候補地域の面積や形状,あるいは保全のための費用や労力など,必要に応じて現実的な要素を評価基準として組み込むことができる.Marxanを用いた相補性解析は,環境省・生物多様性評価の地図化事業でも,全国スケールでの絶滅危惧維管束植物の分布にもとづいて効率的な保全に寄与する地域の地図化を行うために活用された.これは,相補性解析を全国規模で実施し,かつその結果が公表されたものとしてはおそらく国内で初めての画期的な事例である.今後,保全のための効率的な戦略を明示的かつ分かりやすく示す地図化の手法が,さまざまな保全対象および国・都道府県・市区町村などのスケールにおいて活用されることが期待される.一方で,相補性解析は,①すべての計画ユニットにおける保全対象となる生物の分布や状態が明らかになっていること,また,②保全対象ごとに設定された保全目標が,実際にその対象の保全を行うのに十分な効果をもっていることを前提としており,それらを満たさない場合の結果の利用には細心の注意が必要である.

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© 2014 日本景観生態学会
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