放置竹林の整備において,いかに簡便にタケを駆除するかは重要であり,その上で早期の広葉樹林への誘導が期待される.本研究では,稈を全伐して更地にした状態で塩素酸ナトリウム50%粒剤(製品名:クロレートS)を全面土壌散布する方法が放置竹林の広葉樹林への樹種転換を促す簡便な手法となりうるかを検討した.2013年5月に千葉県千葉市の放置マダケ林に試験地を設置し,稈全伐後に薬剤を散布しその後の再生竹を伐採する区(薬剤処理区)と,対照として稈伐採のみを実施する区(薬剤無処理区)において2年半の植生変化を記録した.薬剤の効果が完全に消滅したと考えられる薬剤散布処理から4ヶ月後の2013年9月に植生調査を開始した.薬剤処理区では2013年9月以降マダケは低木層に達しておらず,草本層でも被度は最大で1であった.草本層ではメマツヨイグサなどの外来の高茎草本が優占し,植被率は低木層に比べて高く,増加傾向にあった.一方,薬剤無処理区では2013年9月から2014年10月ではマダケが低木層で被度4となり,低木層の植被率は80%と高く,草本層の植被率は低かった.2015年5月以降には低木層まで達する高さのマダケは無くなった.これはマダケの稈を伐採し続けたことによると考えられる.その結果,低木層の植被率が低下し,草本層の植被率が増加した.また,2015年5月には薬剤無処理区においても,薬剤処理区で2013年9月から出現していた外来草本種が確認されるようになった.すなわち,調査開始から約1年8ヶ月経過して薬剤無処理区は薬剤処理区に似た植生へと遷移した.全ての区において,草本層で先駆・早成樹種を含む木本が出現したが,低木層の木本の種数は顕著には増加しなかった.低木層では最初の稈全伐時に伐り残した木本が2年半経過時にも生存していた.以上から,本調査地では,薬剤散布によって伐採のみを続けるよりも早期にマダケを抑制することに成功した.しかし,薬剤無処理区と薬剤処理区ともにマダケの再生抑制後にすぐに高茎草本が侵入して草本層を優占したため,結果的に試験開始から2年半経過した時点で,両区の木本種の出現に大きな差が生じなかった.早期の広葉樹林化には,最初の伐採時にできる限り木本を残すことが重要であり,さらに高茎の帰化草本の刈り払いや広葉樹の苗木の植栽といった積極的な介入を行う必要が考えられる.