関東地方に残存するハンノキ林の発達過程と動態を明らかにするため,神奈川県箱根町の仙石原において,1991年から2019年までの28年間におよび5回の毎木調査と林床植生調査を行った.1991年に幅5 m長さ50 mの永久帯状区を設置し,樹高2 m以上の全個体について位置と種名を記録し,胸高周囲長,樹高を測定し,樹冠投影図を作成した.また,この帯状区を始点から5 mずつの小区画に分け,高さ2 m未満の維管束植物について種名と被度階級を記録した.1994,1997,2000,2019年にも同様の調査を行い,個々のハンノキの生長,林分構造の変化,植生の変化について検討し,ハンノキ林の動態について考察した.ハンノキの個体数は次第に減少したが,生残個体が樹冠を拡大することによって28年間で林冠がほぼ閉鎖した.低木の侵入によって階層構造が発達したが,新たに高木層に達した種やハンノキの新規高木層参入個体はなかった.ハンノキの後継木が欠如していること,林床に他種の低木や稚樹が増加していることから,現存のハンノキが寿命に達して枯死し始めると,他の樹種に置き換わっていくことが予想された.